「さっき凪ちゃんは、ただ柊斗に寄り添うことしかできなかったって、そう言ったけど。俺は、それだけでも十分だと思うんだ」
「本当に……?何も言えなかったんだよ?柊斗が元気付けられるようなこと、何も……」
「そんなことないよ。だってあいつ、凪ちゃんに話を聞いてもらったんことを俺に伝えてきた時。心がものすごく軽くなったって笑顔で言ってたんだぜ?……あ、これは柊斗には内緒な。あいつも意外と恥ずかしがりだから」
それは、初めて耳にした事実だった。
柊斗は、私といたあの瞬間を、少しでも意味のあるものだと思ってくれていたの……?話を聞きながらそばにいることしかできなかったにも関わらず、私は柊斗の心を少しでも救うことができていたの……?
初めて知る柊斗の思いに胸が痛み、目頭がじんと熱くなる。
その後悠真くんが語ってくれたのは、私の知らない一年と半年ほど前の柊斗の話だった。
「少し前の話をすると、俺が最初に柊斗と出会ったのは、高校の入学式。その時のあいつはそれはもう悲壮感漂う顔をしていて、その瞳は闇しか映していないんじゃないかって思うほどひどくてさ」
「……ん」
「生きる希望が感じられない、そんな目。柊斗から人間らしさなんて全く感じなかった。自分の意見は全部押し込めて、常に周りに合わせて静かに柊斗は笑っていたんだ。……けど、俺はそんな柊斗を何とか見えない闇の中から救い出してやりたくて、諦めずに何回も喋りかけた。そしたらあいつ、自分の過去を俺に話してくれて」
目を閉じ、当時の悠真くんと柊斗が関わっている光景を脳内で想像しながら、私は耳を傾ける。
「初めてそれを聞いた時は、胸糞悪かったよ。こんなにも健気で優しい柊斗の心をズタズタに切り裂いた柊斗の母さんが、許せなかった」
僅かに声を震わせる悠真くんの様子から、怒りや悲しみの感情が痛いほどに伝わってくる。けれどその後すぐに、悠真くんは強い口調ではっきりと言った。
「けどな、それと同時に、思ったんだ。柊斗が家で素直に笑えないなら、生きることができないなら。俺の前では素で笑えるようにしてやればいいって。柊斗が無邪気に笑う瞬間が、俺は一番好きなんだ」
その言葉に、ハッと顔を上げる。
私の視線の先には、いつにもなく真剣な表情の悠真くんがいて。彼の目は、とても強かった。
それはまるで、〝俺が絶対に柊斗を闇から救い出してやる〟という彼の決意そのもののよう。
その瞳に捕らえられた私は、彼から目を逸らせない。