そして翌日の夕方。

悠真くんと会う前に、あかりの自宅付近まで足を運び、彼女と待ち合わせていた私。実は昨日、彼女にも『十分でいいから時間を作って欲しい』と声をかけていたのだ。……あかりに、どうしても伝えたいことがあったから。

「私ね、……柊斗のことが好きなんだ」

少しだけ立ち話をした後に、道路の傍らでなんの脈絡もなく放たれた私の言葉。あかりの前ではだいぶ自分の気持ちを見せられるようになったと思う。だから、今も少し緊張していたけれど、あかりに柊斗への思いを打ち明けることができた。

「好きだから、柊斗のことをもっと知りたい。柊斗の、支えになりたいんだ」

柊斗の過去は伏せたものの、彼のことをもっと知って役に立ちたいんだとあかりに説明した。てっきり彼女は目を丸くして驚くものだと思っていたのに、目の前にいるあかりはあっけらかんと立っている。

「ねぇ、凪ちゃん?」
「は、はあい?」
「私が気付いてないとでも思ってたの?」

冗談げに私の名前を呼んだ彼女。その口元は、綺麗に緩い弧を描いていた。

「気付いてたよ。何年凪と一緒にいると思ってるの?親友を舐めないでよね」

呆気にとられて目を丸めたのは、私の方。あかりは私の反応を見た後、さらに深く目尻を落とす。

彼女は私の気持ちにすでに気付いていたようだ。そしてどうやら、柊斗がたまに見せる悲痛な表情にも気付いていたようで、「凪ならきっと柊斗くんを笑顔にしてあげられるはず。頑張ってね」と私の背中も押してくれた。

あかりの優しさが心の奥深くにまで沁みた私は、思わず涙ぐんでしまい、あかりにからかわれてしまったけれど。それでもいい親友を持ったなあと改めて実感することができた。

「凪、気をつけて駅まで行くんだよ。悠真によろしくね」
「うん、あかりこそ、ここまで来てくれてありがとう。またね」

悠真くんとこの後会うことは、あかりにあらかじめ告げていた。別れ際、そんな言葉をかけてくれたあかりに見送られ、私は悠真くんとの約束の場所へ向かう。

足を進めて数分。もうすぐ時刻は午後五時にもなるが、この地に差す日は止むことはない。ジリジリと焦げ付くような日差しと、夏を告げる蝉の声。それらが混じり合う道を歩き続け、私はようやく駅に辿り着く。

どうやら悠真くんはもう先にカフェの中に入っているらしく、私も急いでそこへ向かうと、待ち人がいることを店員さんに告げ、悠真くんのいる席に通してもらった。

「悠真くん、ごめんね。待ったよね」
「おう、凪ちゃん。俺なら大丈夫。五分前とかにきたばっかりだし」
「本当?ここまで来てくれてありがとね」

そんな会話を互いにしながら、私は悠真くんの前の席に腰かける。

悠真くんは飲み物をすでに注文し終えた後みたいで、「凪ちゃんもとりあえず何か注文しなよ」とメニュー表を渡してくれた。

……カフェオレか、オレンジジュースか、はたまたミルクティーか。じっくりとメニューを眺め、結局私はこの中でも一番大好きなミルクティーを注文することにした。

店員さんにそれを伝えてから、数分後。悠真くんの頼んでいたアイスコーヒーと一緒に私の飲み物も運ばれてきたようだ。

汗も滲み喉が渇いていた私は、早速ミルクティーにストローを差し込み、カラカラだった喉を潤す。

「んん、美味しいね」
「凪ちゃん、ミルクティー好きなんだ?」
「ん?うん。この味が、昔から大好きなんだよね」
「どうりで。めちゃくちゃ美味そうに飲んでるから、そうなのかなって」

自分では意識していなかったけれど、あまりにも私が美味しそうにミルクティーを飲んでいたらしい。悠真くんはそんな私を見て、にかっと歯を覗かせる。