苦しいとか、泣きたいとか、そんな痛みではない。これは、……そう、胸がドキドキと甘く疼く痛み。

今まで見たことのない柊斗の大人びた表情に、花火を見つめるその真っ直ぐな横顔に、私は見惚れてしまった。

──私は、柊斗が好きなんだ。憧れや友情ではない。きっと私は、柊斗に恋をしている。

そう自覚した途端に、今までにないくらいのスピードで心臓が鼓動を刻み始める。顔が、陽に熱されたように熱い。

私はこの熱からとりあえず逃げたくて、柊斗から視線を逸らした。

その先には、絶えることなく咲き続ける大きな火の花。

赤、黄、オレンジ、青。様々な色の花を咲かせては、夜闇に吸い込まれるように一瞬で儚く消えてゆく。それに合わせて色を変える、この暗闇に覆われた夜空。それも含めとても幻想的なこの景色に、私は再び目を奪われた。

「……ねぇ、凪」

しばらく空を無言で見つめていたら、柊斗が私の名前を呼ぶ。

「俺、こうして凪の隣で、そして悠真やあかりちゃんと一緒に。こんなにも素敵な景色を見ることができて本当に幸せ」

柊斗はそう言い、頭上に満開に咲き誇る花々に負けないくらいの笑顔を見せる。その表情はとても綺麗で、何よりも輝かしい。

「……私もだよ」

あまりに柊斗が見せた笑顔が綺麗だったから、上手い言葉がでてきてくれなくて、この一言を口にするのが精一杯だった。でも柊斗はそんな私の言葉を拾い、さらに目尻を落とし微笑んでくれる。

……せっかく気付いた、自分の思いだけれど。それを柊斗に伝えることなんて、私にはできない。

今はまだ初めての恋というものに戸惑いばかりだし、そして何より、私の気持ちをぶつけることによって、この幸せな時間を壊したくない。柊斗とずっと、穏やかな時間を過ごせたらそれだけで満足だから。

──どうか、これからも柊斗と仲良くいられますように。あかりや悠真くんと過ごすかけがえのない時間が、永遠に続きますように。

私はそう強く願い、満開に咲き誇る夜の花を見上げながら、そっと頰を緩めた。