けれど柊斗は、いくら思い返してもそういった話を自分からしているのを見たことがない。
そんな柊斗が妹のことを話題に持ちかけてくれたのがとても嬉しかった私は、単純に気になっていた妹さんのことを聞いてみることにした。
「やっぱり妹って、可愛い?私弟しかいないからさ、女の子ってどうなのかなあって」
「うん、すごく可愛い。俺の妹さ、ファッションに興味があるみたいで、いつもオシャレなんだ。反対に俺はダサいみたいで、よく妹に私服チェックをされたりする」
「え、それも初めて知った。女の子だと、お洋服とかのお話もできるんだね。いいなあ」
妹さんのことを話している時の柊斗の表情はとても優しくて、妹さんのことが大好きなんだなあということがよく伝わってくる。
柊斗の妹さんはこんなにも柊斗に愛されて、とても幸せだろうなあと感じた。
「柊斗のお母さんやお父さんはどんな人なの?やっぱり柊斗と同じで、優しいの?」
妹さんの話を聞いたら、柊斗のお母さんやお父さんのことも聞いてみたくなった私は、思い切って柊斗に質問を投げかけてみることにした。
さっきの妹さんのことに関してとても穏やかな表情で答えてくれたから、きっと他の家族のことも柊斗は優しい顔で教えてくれるだろう。
そう思っていたのに、なぜか柊斗は私の質問に表情を曇らせる。
「……俺、両親は離婚してるから、もう父親はいないんだ。でも、母さんは、そうだなあ。すごく自由な人かもしれない」
柊斗は消え入りそうなほど小さな声で、ポツリと言葉を放った。
あ、と思った時にはもう遅く、聞いてはいけないことを聞いてしまったかなあと今更後悔する。けれど柊斗はそのあとすぐに私と目を合わせると、口元を緩め微笑んだ。
「全然気にしなくていいよ。俺から家族の話なんて滅多にしないから、気になったね」
「でも……」
「あ、また謝ろうとしてる。高校の友達からも〝お前の母さんや父さんどんな人なんだよ〟ってよく聞かれるし、大丈夫。気にしないで」
柊斗はそう言ってくれるけれど、無神経なことを口走ってしまったとやっぱり反省してしまう。だから謝罪くらいはどうしてもさせてほしい。
そう思い、柊斗の顔を見上げたのだが、「よし、もうこの話は終わりね」と釘を打つように言われ、謝ることもできなかった。
「……さあ、凪。ここあたりだったような気がするから、悠真とあかりちゃんを探そう」
柊斗はちらりと私を見つめて、柔らかな笑みを浮かべる。
その顔はいつもの柊斗の笑顔とは違うように思えて、私の気のせいかもしれないが、完璧に作られた偽りの笑顔に見えた。けれど柊斗はそんな自分を誤魔化そうとなんでもないことのように振る舞おうとするから、私もそれに気付かないふりをすることにした。