その様子を見た柊斗は面白おかしく目を細めると、チョコバナナを売っている屋台の方へ向かおうとする。
「え、ちょっと柊斗」
「チョコバナナ、欲しいんでしょ?」
「でも……」
「悠真やあかりちゃんの欲しいものも買ったんだから、ここは凪の食べたいものも買わないとね。それに俺も、唐揚げ食べたいからって、無理に長い列に並ばせちゃったし。ということで、凪はここで待ってて。絶対動いちゃだめだからね」
慌てて柊斗を引き止めたけれど、なぜか上手いこと言いくるめられて、彼はスタスタとチョコバナナを買いに行ってしまった。
柊斗はああ言ってくれたけど、それでもやっぱり申し訳なく思って、自然に視線が地面に落ちてしまう。
そのまま殺風景な景色を見続けること数分が経っただろうか。
「はい、凪」
どうやら柊斗が帰ってきたようだ。
しぶしぶと俯けていた顔を上げると、そこには美味しそうなチョコバナナを手に持ち微笑む柊斗がいた。
「……ありがとう」
未だに色んなことを考えていたせいか、お礼の言葉を述べたけれど、思っていたよりも声が小さくなってしまった。きっと、周りのがやがやした音にきっと掻き消されてしまっただろう。
だから、〝もう一度きちんと柊斗の目を見てお礼を言おう〟とそう決めて、私は深く息を吸う。
でも、私が言葉を押し出すより先に、柊斗が口を開いた。
「凪さ、今、俺に申し訳ないって思ってたでしょ?」
「へ?」
「ほら、図星だ。いいんだよ、そんなこと気にしなくて。俺らはみんな友達なんだから、少しくらいは我儘言ったって大丈夫」
おずおずと見上げた柊斗は、とても力強く笑っている。
「凪はとっても優しいから、いろんなことを〝迷惑じゃないかな〟って考えちゃうと思うけど。その優しさを、もう少し自分のことに使ってあげても、俺はいいと思うな」
この言葉を聞いた途端に胸がいっぱいになり、気を緩めると涙が溢れてしまいそうだ。
柊斗は私のことを優しいというけれど、私以上に柊斗の方が優しいと思うんだ。だって私は、柊斗のように、こんなにも不安を消し去ってくれるような言葉をあげることはきっとできないから。
いつも柊斗のくれる言葉は私の心に真っ直ぐ届き、ネガティブな思考から引き上げてくれる力を持っている。