器用にストローを回しながら、タピオカを吸うあかりを横目に、私は柊斗と海へ出かけた日を思い出していた。
そういえばあの日、楽しげに目尻を垂らし笑う柊斗の表情を目にして、心の奥底が、僅かにトクンと音を立てていた。
あの時は初めて抱く感情に戸惑い、考えても見つからない答えにとうとう考えるのを諦めたが、もしかしたら、あれが……?
……いや、ないなあ。
「ときめいたりとか、ないよ。柊斗はとってもいい友達だよ」
そう否定してみたものの、あかりが余計なことを言うから、柊斗のことを意識的に考えてしまう。
「そっか。何だかんだで凪と柊斗くんはお似合いだと思うんだけどなあ。……あ、ごめんごめん。そんなに目でこっちを見ないでよ」
訳の分からないことを言い始めたあかりを牽制の意味を込めて軽く睨みつけると、それに気がついたあかりは笑いながらも謝罪の言葉を口にした。
それでも尖った唇を中々引っ込めない私に、あかりは話を逸らそうと違う話題を振ってくる。
「……あ、そうだ。花火大会、来週末だね。悠真たちもすごく楽しみにしてた」
「もう来週なのかあ」
……そうだ。来週末は、四人で私とあかりの地元で毎年開かれている夏祭りへ行く約束をしている。
そこまで大きくはない祭りだけれど、屋台もそれなりには出店されるし、花火も五千発は打ち上げられる。
今週火曜日にあった塾の際に悠真くんが提案して急遽決まった、四人での花火大会への参加。
この予定が決定した時から、私もすごく当日を楽しみにしていたんだ。
「どんな服で行こうかな。やっぱり動きやすさ重視?でも、薄着にしすぎたら蚊に刺されるよね。……いや、虫除けスプレーしたらなんとかなるかなあ。ああ、どうしよう。楽しみだね」
前のめりで興奮している様子のあかり。確か中学生の頃、夏祭りが行事の中で一番好きだって言ってたなあ、ということをふと思い出した。どうりでこんなにもテンションが上がるはずだ。
けれど私も例外ではないみたいで、目の前で心の底からの笑顔を浮かべているあかりを見ていると、私も当日がどうしようもなく待ち遠しくなった。