あかりに自分の気持ちを打ち明けられた日から、数日。
あれから私は、あかりに思ったことを真っ直ぐに伝えられるように少しずつ努力をしている最中。あかりもそんな私を、優しく見守っていてくれる。
柊斗や悠真くんも私たちの仲直りを喜んでいるのだろう、塾の際に仲睦まじげに話す私たちに暖かな目を向けてくれるんだ。
今の私とあかりの関係があるのは、あの日、柊斗が優しく私に寄り添ってくれたから。間違いなく、私は柊斗に救われたのだ。
「ねぇねぇ凪」
ハッと顔を上げると、そこにはにんまりと意味深な笑みを浮かべているあかり。私たちは今日、駅前にリニューアルオープンしたカフェにきていて、私はいちごオーレを、彼女はミルクティータピオカドリンクを飲みながら夏休みを楽しんでいる。
「柊斗くんのこと、好きなんでしょ」
そのいちごオーレを一口含んだ時、急にあかりから信じられない言葉が飛んできた。私は動揺を隠せず、口から少し飲み物を吹き出してしまう。
「あ、凪。汚いんだあ」
口元を押さえて目をパチパチさせる私にあかりは、へらっと笑ってからまた口を開いた。
「で?どうなの?」
「……急に何?」
「だって凪、やけに柊斗くんと仲良いみたいじゃない?もしかしてもう付き合ってるとか?それならそうと……」
「ス、ストップ。違うからね?」
意味のわからないことをつらつらと述べられて、恥ずかしさに耐えきれなくなった私はあかりの言葉を遮る。
あかりは「ええ、違うの?」と少し不満そうだ。
私たちは確かに出会った頃よりは確実に仲を深めているかもしれない。けれど、それは恋とかではないと思う。……少なくとも、私は。
「凪はさ、誰かのことを好きになったことないんだって前にちらっと言ってたじゃん。だから、恋愛感情が分からないとかじゃなくて?」
その言葉に思い出すのは、今までの自分。
確かにあかりの言うように、誰かの特別になりたいとか、誰かのことを考えると胸が痛く締め付けられるような気がするとか、はたまたあの人が他の人と話していると胸がもやもやするとか。
恋をすると、誰もが経験するような感情を私は一度も抱いたことがない。
そう、私は今に至るまで、いわゆる恋愛経験がゼロなのだ。
「柊斗くんと一緒にいてさ、独り占めしたいと思ったり、笑顔を見せてくれたときにトクンと胸が疼いたり。そういったことはないの?」
そう言いながらあかりは、飲み物に刺さっていた太めのストローをくるくると回す。