柊斗は本当に、優しい人だ。こんなにも綺麗な心を持っている柊斗の瞳には、この海と空が織り成す世界はどう映っているのだろう。
そんなこと分かるはずもないのに、その答えを見つけようと私も同じように視線を前へやった。
「ねぇ、凪」
「……ん?」
「嫌だったら、無理にとは言わない。だけどもし俺に話すことで凪の心が少しでも楽になるなら、俺は凪の話を聞きたい」
そう言ってくれる柊斗の声は真っ直ぐに伸び、この広大な青空の中に吸い込まれていく。
……ありがとう、柊斗。
私は心の中でお礼を言い、ふうっと小さく息を吐いた。
「あのね」
意を込め押し出した一言は、情けなく震える。
きっともう、限界だったんだ。誰にも言えず、自分の中で全てを抱え込むのも、あかりに謝りたいのに謝れない、そんな臆病な自分が存在するのも、全て苦しかった。つらくてつらくてたまらなかった。
「……私、柊斗の想像していた通り、あかりと喧嘩しちゃったんだ」
だから、話を聞いてくれると言った柊斗に甘えてしまったんだ。
「きっかけは、私があかりのことを信じきれず、こんな私といてもあかりは楽しくないんじゃないかって勝手に決めつけて、あかりはどうして私と一緒にいてくれるのかって聞いたことだった」
「……そっか」
「中学の頃から、思ってたんだ。あかりは友達も多いし、私と違って明るく社交的。あかりはいつも頼みごとを断れない私のことを、助けてくれる。……それが、あかりにとって迷惑になってるんじゃないか、って、ずっと申し訳なさを感じてたの。でも、言えなかった。自分の思いを口にしてしまえば、こうして関係が崩れてしまうって分かっていたから」
「それでも、凪はこの前、あかりちゃんにそれを伝えたんだよね?それはなんで?」
「……トイレで、偶然、他のクラスメイトの子が話してて。あかりはいつも私のことを手伝っているけど、彼女が無理をしているんじゃないのかなって心配だ、って。それを聞いてね、ああ、客観的に見ても私はあかりのお荷物なのかもって感じちゃったの。そしたら、自分の用事を手伝ってくれているあかりに、思わずずっと聞けなかったことを聞いちゃってた」
柊斗はじっと耳を傾け、時折相槌を打ちながら私の話を聞いてくれている。その姿勢になぜかホッとして、溜まっていた感情が言葉となって吐き出されていく。
「喧嘩をした時、あかりに言われたの。いつもそうだよね、って」
思い出すのは、あの日のあかりの言葉たち。
それをそのまま柊斗に伝えると、柊斗が小さく口を開いた。