そう広くはない構内。すぐに改札を見つけることができた。ICカードをタッチし、私は改札を抜ける。
そこにはもう柊斗の姿があって、私を見つけるなり片手を挙げ爽やかに微笑んだ。
「お待たせ。迎えに来てくれてありがとね」
「いやいや、俺の方こそ、急だったのにここまで来てくれてありがとう」
「ううん、そんなに遠くなかったし。誘ってくれて嬉しかったよ」
「本当?それならよかった」
互いに少しだけ立ち話をして、早速二人で出入口の方を指差す。
車通りの多い道から、人二人が横に並んで歩くのが精一杯だと思えるような狭い道に入り、一列で歩くこと徒歩五分。
ひらけた場所に出たかと思えば、視線の先には一面の海が広がっていた。
「……わあ、綺麗」
私は堤防の手前まで駆け寄り、目の前に姿を現した景色をただ呆然と眺める。
漠々と果てしなく広がるスカイブルーの海に、水色に白の絵の具を溶かしたような澄み切った空。それらで構成された青色の世界は、息を呑むほどに美しい。
夏の日差しが海に降りかかり、きらきらと反射する様子は、まるで粉々にされたガラスをちらちらと散らしているようだ。
「綺麗でしょ?ここ」
感激のあまり言葉もでない私に向かって、にんまりと得意げに口角を上げた柊斗は、「よいしょ」という掛け声とともに、自分の腰くらいまである堤防に上がる。
「ほら、凪もおいで」
そう言って差し伸べられた柊斗の掌。少し戸惑ったけれど、私はその手を掴み同じように堤防に上がった。そして腰を掛けた柊斗の隣に、私も腰を下ろす。
……不思議だなあ。
堤防の上にきただけで、海や空がぐんと近くなったように感じる。こんな、一メートルもないような段差を登っただけなのに。
なんだか楽しくて、足をぶらぶらさせながら掌を太陽にかざしてみる。日差しに打たれている身体はとても暑さを感じているはずなのに、さっきよりも幾分と涼しく思うのは、青に溢れた景色を眺めているからなのだろうか。
「凪、ちゃんと水分はとりなよ。熱中症になったら大変だから」
そんな私の考えを見透かしてか、柊斗に忠告を受け驚いた私は、目を丸くしながらもきちんとミネラルウォーターを口に含んだ。
「おーい、兄ちゃん、姉ちゃん。海の中に落ちねぇように気をつけろよー」
しばらく柊斗と話していると、途中、堤防の歩道側を通りかかったおじさんが声をかけてくれる。
「はい。ありがとうございます。気をつけます」
私たちはそのおじさんにお礼を言ってから、今より少しだけ深く腰かけた。