夕飯を食べた後は順次お風呂に入り、歯磨きなどの洗面も済ませ、私は自室へ上がる。
今日は金曜日。一週間分の疲れが身体に蓄積しているのがよく分かる。それに先週と今週は、あかりのこともあってか、心の疲労もいつもより激しい。
部屋に入るなり扇風機を回し、疲れきった身体を休ませるため、即ベッドに身体を丸める。視線の先に、充電コードに繋いだまま放置していたスマートフォンが目に入った。
誰かから連絡がきているかもしれない。
そう思い画面の明かりをつけると、新着メッセージの知らせがきていたため、私は慌ててメッセージを表示する。
「……あ」
私にメッセージをくれたのは、柊斗だった。
《塾お疲れさま。無事に帰れたかな?実は凪にちょっと聞きたいことがあって、連絡したんだ。明日どこか時間空いてる?》
この文面を受信したのは、どうやら今から一時間ほど前。内容的には遊びの誘いだろうか、と思ったものの、真相は柊斗に聞いてみなければ分からない。
《ごめんね、お風呂とか用事を済ませてて返事が遅くなった。家にはちゃんと帰れてる。柊斗もお疲れさま。そして明日だけど、一日特に何もすることないから空いてるよ》
私は寝転んだままスマホのキーボードをタップし、柊斗へ返事を送信する。
一時間も前に送られてきたものだから、すぐには返事はこないだろうと考えていたのに、柊斗はずっとスマホをそばに置いていたのか、もう連絡が返ってきた。
《全然気にしなくていいよ。……お、明日空いてるんだ。じゃあ、もし凪がよければさ、一緒に海に行かない?》
「海……?」
遊びの誘いかもと想像していたとはいえ、突然の柊斗からの言葉に驚き、スマホを片手に固まってしまう。けれど、何か気分転換をしたいと日頃から考えていた私にとっては、これはいいチャンスかもしれない。
だが、この辺りは電車で何駅か跨ぐと辿り着く海が多くある。
柊斗は一体、どこの海へ行くつもりなのだろうか。あまりに遠すぎる場所だと、少し身体がきついと思うし……。
気になった私は、了承の返事とともに柊斗に尋ねることにした。
《海、いいね。私も行きたい。でもどこの海に行こうと考えてる?あまり遠くだと、難しいかも……》
《全然遠くないよ。前にネモフィラ畑に悠真やあかりちゃんと行ったでしょ?その時に、俺たちが乗ってきた駅。あそこで降りてくれたらいいから。俺の最寄り駅から徒歩圏内に海が綺麗に見える堤防があるんだよね》
そのメッセージを読んで思い出すのは、数ヶ月前に四人で遊んだ時のこと。
そうか、あの駅で降車すればいいのか。……まさか柊斗や悠真くんの最寄り駅の近くに海の見える堤防があっただなんて知らなくて、驚いた。けれどそこなら、私の使用する駅から十分程度電車に揺られれば到着できるから、余裕で駆けつけられる。
私は柊斗に改めて承諾の返事を送信し、そのメッセージの内容の中には〝楽しみにしている〟ということも入れた。
そうと決まれば、明日の準備をしなければ。
ここ最近沈みきっていた私の心が、ほんの少しだけ浮き上がる。私はベッドからのそのそと起きると、着ていく服を選ぶために全身鏡の前でひとりファッションショーを開催した。
こんな感じで時間は無情にも進み、結局私が眠りについたのは日付を少し跨いだ頃だった。