「あかりは、さ」
「……ん?」
「どうして、中学の頃からずっと私と一緒にいてくれるの?」
「……それは、どういうこと?」
心の中に押し込めていた思いはもう限界を迎えたようで、私はあかりに一番聞きたくて、でも聞けなかったことを口にしてしまった。
あかりはただならぬ空気を感じたのか、それとも私の発言に思うところがあったのか。静かに私の顔を見上げる。少しだけ潤った瞳が鋭く私を貫き、重く口を閉ざした彼女。
「だから、どうして……私みたいな人と一緒にいてくれたのかなって。あかりには友達もたくさんいるし、私なんてあかりに迷惑をかけてばかりだし、私と一緒にいてもあかりは……」
「楽しめないって?迷惑をかけるばかりだから、申し訳ないって?……そんなの、誰が決めたのよ」
堰き止めていた様々なものを吐露していく私に、あかりが噛み付くように言葉を被せた。
とても、強い目。憤りを感じているのだとすぐに分かる。そしてその奥には、僅かな揺れも見えた。
あかりにこんなにも苛立ちの目を向けられるのは初めてのことで、思わず一歩後ずさってしまいそうになる。
「凪は、いつもそう。自分の言いたいこと全部隠して、そうすれば周りも自分も、傷付かないで済むと思ってる。私が気付かないとでも思った?とっくに知ってたよ。凪が上手く自分の意見を周りに伝えられないこと。……でもね、私はそれでもいい。まずは私に心を開いてくれて、徐々に凪の壁を壊していけたらいい。そう思ってた」
あかりは私をジッと見つめたまま、言葉を紡いでいく。
「だけどさ……凪がいつまでも私から逃げていくんだもん。それじゃあ私たち、一生交わることはできないよね」
胸が、痛かった。あかりの言うことは全てが正論で、間違いがひとつもない。いつだって逃げていたのは私で、ぶつかることを恐れていた。
「さっき、言ったよね。どうして自分と一緒にいてくれたの、って」
「……うん」
「そんなの、凪のことが好きだからじゃん……。一緒にいたいって、私が思ってるからじゃん。私は確かに友達は多い方かもしれない。でも、私にとっての〝親友〟は凪しかいなかった。いつも優しく寄り添って話を聞いてくれる凪のこと、本当に大好きだったのに……」
そう言ったあかりの目は、さっきよりも潤いを増している。でもあかりは涙を流すことなく、きつく私を睨みつけた。
「でも、凪は違ったんだね……」
静まり返った教室に小さく響く声。とうとう彼女の顔を見ていられなくなった私は、視線を地面にゆっくりと落とす。
そんな私を見てか、あかりは自分自身を落ち着けるように息を吐くと、「ちょっと言いすぎた。ごめんね、凪」とそばに置いていたスクールバックを握りしめて教室を後にする。
夏の日差しが顔を覗かせる教室に、一人取り残された私。真っ白になった頭は正常な働きを失い、ただ呆然と立ち尽くす。
ひとつだけ分かるのは、あかりを悲しませてしまったということ。私のせいだ。全て全て、私のせいだ……。
激しい後悔に包まれる。けれど、悔やんでも嘆いてももうどうしようもなくて、さっきまであかりといた教室に、今は取り残されたように私一人だけ。
その光景が、私と彼女が喧嘩をしてしまったという事実を象徴していた。