その光景はまるで、柊斗が前に進めた証のようにそこに存在している。

……柊斗、よかったね。頑張ったね。

私はもう一度心の中でそう語りかけると、自分も背を向け家路を急ぐ。ふと、最近の私は以前にも増して自分の言いたいことが口にできるようになってきたなあと感慨深くなる。

……長かった。その過程の中で随分と苦しんだし、何度も何度も傷付いた。でもね、人間はそうやって、何度も挫折や後悔を繰り返して強くなっていくのだと思う。

初めは誰もが未完成だった。

完璧な人など一人もいない。幾度となく傷付いてて、傷付けられて、その度に涙を流して、私たちはそうして大人になってゆく。

そしてその経過の中で、一人でも自分自身をきちんと見て愛してくれる人が現れたなら。その時、人はようやく自分の抱えるものと向き合うことができ、自分が幸福の中にいたのだと知ることができる。

それは過去の傷をゆっくりと癒し、これからこの世界を生きていくための糧や希望となるだろう。

私にとって、それは柊斗だった。

だからこそ私は、柊斗にとっての星になりたいと思う。いつまでも柊斗の苦しみや悲しみを共に背負い、抱えているものを和らげてあげられる、そんな存在に。

そう、この世界は、心を落ち着けてよく周りを見渡して見れば、数多くの優しさに溢れている。愛に溢れている。

私は、満天の星の輝く夜空の下を駆け出した。風邪を切るように夜道を走り、大切な家族の待つ家を目指す。

あと少し。あと、もう少し。……ほら、ようやく自宅が見えてきた。

私は玄関の扉の前で、乱れた息を整えるように深呼吸を繰り返す。そして──。

「ただいま」

ドアを開いて家に入り、一度だけすうっと息を吸い、大きな声で自身の帰宅を告げた私。

靴を綺麗に脱ぎ揃え、クタクタの身体を引きずりながらリビングの扉を開けると。

「おかえり、凪。あったかいご飯、できてるわよ」
「おお、帰ってきたのか。凪も毎日頑張ってるな。お疲れ様」
「お姉ちゃん、おかえりなさい!みんなで一緒にご飯食べようね」

……そこには。私のいるべき場所が、温かい家庭があった。

私はこれからも、この家族を守っていきたい。そして、いつまでも笑い声の絶えない、仲のいい家族でありたい。

三人の笑顔を見ていると、そんな明るい未来を願わずにはいられないから。

……どうか私たちが、このまま幸せな時間を過ごせますように。

そう強く願った私は、そっと頰を緩めると。そのまま、家族の輪の中に駆け出していった。