──あの日から、約一ヶ月後。
私は未だみんなと一緒に塾へ通っていて、今日も先ほど二時間みっちり行われた授業を終えたばかり。
「じゃあね。凪、悠真。それから柊斗くん」
「おう。あかりも気をつけて帰れよ。それから凪ちゃんと柊斗もな」
建物の外に出た私たちは、互いに手を振りそれぞれの道を帰る。といっても、私と柊斗はもうしばらくここで立ち話だ。
なぜなら、今日は柊斗のお母さんと日菜ちゃんが近くに買い物に来ているらしく、柊斗も二人と一緒に帰宅する約束をしているらしい。そのこともあり、今は柊斗のお母さんと日菜ちゃん待ち。
柊斗は私にも『先に帰ってていいよ』と優しい気遣いをしてくれたのだけれど、あかりが『せっかくなんだから、待ってあげなよ。……ほら、彼氏でしょ。二人の時間も必要だよ』と、恋人同士になった私たちを茶化すようなことを言い出し、こうして一緒に待っているわけだ。
「凪、寒くない?」
「うん。今は夜風も少し冷たくなったしね。このくらいの気候が一番気持ちいい」
「それならいいんだけど。ほら、ちゃんと風邪には気をつけてよ?凪に会えないと、俺が寂しいんだから」
柊斗はどうやら私が制服の半袖シャツ一枚でいることが、風邪を引くのではないかと気になっているらしく、心配そうな目を私に向ける。
私と恋人同士になってからの柊斗は時折こうして心配性を発揮し、その度合いは思わず笑ってしまうほど過保護な面もある。けれど、そんな優しさも全て含めて嬉しいと感じてしまうのだから、私も大概柊斗には甘い。
二人で色々な話に花を咲かせていると、遠くの方から「お兄ちゃん、凪さん」と可愛らしい声が聞こえる。この声はきっと……。
「ああ、日菜」
私の思った通り、日菜ちゃんだ。日菜ちゃんは少し離れたところから私たちに向かって、大きく手を振っている。
「柊斗、帰るわよ」
彼女の横には柊斗のお母さんの姿もあって、目尻をきゅるりと下げながら笑う顔は、柊斗にそっくり。私の頰も思わず緩む。
「凪、一緒に待ってくれてありがとう。また連絡するね」
「うん。気をつけてね」
「了解。凪もね。……じゃあ、また」
そう口にした柊斗は、以前彼からは考えられないほどの笑みを見せ、お母さんたちの元へ駆けていく。
柊斗に、日菜ちゃんに、それから二人のお母さん。三人で肩を寄せ仲良く歩く後ろ姿を見て、私はなぜか感動を覚えた。