全ての手紙を読み終えた柊斗は、「少し長すぎたかな」と眉を下げて困ったように笑うけれど。
私は、それどころではない。手紙が長いとか、そんなことはもうどうでもよかった。
ただ、柊斗の気持ちが嬉しくて嬉しくて。胸の奥底がぎゅう、と締め付けられるような感覚に襲われる。
柊斗の手紙はとても真っ直ぐで、ストレートに私の心に響いてきて。柊斗の持つ思い全てが、私の心に深く染みる。
「なんで凪が泣くかなあ」
「だって……」
「もう、凪は泣き虫なんだから」
自分でも気付かない間に様々な感情は涙に変わっていたらしく、私の頰をいくつもの雫が伝う。
そんな私を見て微笑んだ柊斗は、親指の腹で涙を拭ってくれた。けれど、とめどなく溢れる涙は一向に止まる気配を見せない。それどころか、柊斗の優しさに触れたことで、もっと目頭が熱くなったみたいだ。
「ねぇ、凪」
「……なに?」
「もう一度だけ、ちゃんと言うから。しっかりと俺の目を見て、聞いてほしい」
今までに聞いたことがないほど真剣な柊斗の声。
止まらない涙をそのままに、私は柊斗を見上げる。一瞬たりとも目を逸らさない。
柊斗と紡ぐこの瞬間を、これから先も忘れてしまわないように。
「俺は凪が好き。これからもずっと凪の側で、凪の笑顔を守りながら生きていきたい」
バッグミュージックのようにやんわりと流れる波音と、月明かりにぼんやりと照らされながら笑う柊斗と。
今この瞬間を構成する全てが、愛しくて仕方ない。
「……俺じゃ、頼りないかな」
黙ったままの私を見て不安になったのか、柊斗は眉を下げ、視線を僅かに私から逸らす。
私はそんな柊斗に向かって、両腕を伸ばした。そしてその身体を優しく包み込む。
「凪……?」
「頼りないなんて思わない。だって、私も柊斗が好きだから。今までもこれからも、私の隣にいてくれるのは、柊斗がいい。柊斗じゃなきゃ、嫌だよ……」
唇からこぼれ落ちた言葉は情けないほど弱々しくて、柊斗を抱きしめる腕も分かりやすく震えている。
それでも、伝えたい。
どんなに不器用でも、不格好でも。私はあなたが好きだよと、分かってほしい。
その思いが柊斗の心に届いたのか、しばらく経ってから私の背中に回されたのは、柊斗の両腕。
「きっと俺はずっと、誰かにこうして抱きしめられたかったのかもしれない。……それが、凪でよかった」
耳元で聞こえたのは、僅かに震える柊斗の声と、鼻をすする音。
……もしかして、泣いているの?