だって、街灯に照らされる柊斗の横顔は、まるで何かの呪縛から解かれたかのように、とても晴れ晴れとしていたから。
「母さん、泣きながら謝ってくれた。日菜と俺を抱きしめて、〝後悔してる〟って」
「……うん」
「……それから、大好きだ、って、言ってくれた」
柊斗の顔からは喜びが満ち溢れていて、私まで暖かい気持ちになれる。
「もちろん、当時はつらくて仕方なかったけど。今もまだ、完全にあのことを忘れることはできないけど。それでもね、母さんに〝生まれてきてくれてありがとう〟って言われるだけで、日菜に〝お兄ちゃんがいてくれたから幸せだよ〟って言ってもらえるだけで、今まで頑張って生きてきてよかったってそう思えるんだ」
その言葉に、なぜか泣きそうになったのは私の方だった。
……私も、伝えなければ。柊斗が頑張ったように、私も懸命に前に進もうとしたんだ。その結果を、側に寄り添い続けてくれていた柊斗に聞いてもらおう。
「私もね、お母さんとお父さんに、ちゃんと言えたよ。軽い悪口のことも、お母さんに相談を聞いてもらえなかったことも、その時から自分の本音を言えなくなったことも。包み隠さずに、全部話せたよ」
「……そっか」
「柊斗のお母さんと同じように、謝ってくれた。今まで気付かなくてごめんねって。そしてね、私と蓮のこと、……愛してるって、言ってくれた」
思い出すのは、今日までの日々。
本当につらかった。自分の本音を心の奥に隠せば隠すほど、自分という存在がこの世界から消えてしまうようで、何度も泣いた。蓮の入院後、誰もいない家で一人きりで過ごす夜は、寂しくてどうしようもなくて、私を孤独という闇に容赦なく突き落とす。
けれど、柊斗や悠真くんと出会って、あかりも含めた彼らと同じ時間を過ごして。あかりや両親、蓮と向き合うことを決めた。全ては、自分を変えるため。……そして、みんなと向き合ったことで、苦悩を抱え生きてきた日々は全て無駄じゃなかったんだと気付くことができた。
私は思う。寂しさや苦しみ、痛みを経験したからこそ、人は大きく成長していけるのだと。
今回のことがあったからこそ、私は両親のありがたみを改めて感じることができたし、あかりや悠真くん、友達がそばにいて助けてくれることの嬉しさも、知ることができた。
そしてなにより、自分と向き合うことができたおかげで、柊斗のために行動し、誰かのことを救いたいと思う気持ちを持つことができた。
「……よく頑張ったね、凪」
「柊斗こそ」
そう言って顔を合わせ笑いあう私たちを、やわらかな風が包み込む。
隣に柊斗がいてくれる。その事実が私の心をどことなく安心させてくれて、身体は寒さを感じているはずなのに、胸の中心はぽかぽかと暖かい。……不思議だ。
「……凪」
柊斗の体温を側で感じながら、しばらく景色を眺めていると。隣から、私を呼ぶ大好きな声が聞こえる。
ちらっとそちらに目をやれば、いつになく真剣な顔をしている柊斗がそこにはいて。