翌々日。蓮の体調は順調に回復し、明後日には退院し自宅へ帰ってこられるみたいだ。

夏休みも残すところあと僅か。

昨日は塾があったのだが、柊斗は欠席だった。悠真くんに理由を聞くと、〝家族の用事で〟ということらしい。だから柊斗も、昨日家族とぶつかりあったんだろうか、と密かに予想していたのだけれど、まだ今日になっても連絡はない。

私はといえば、家族に自分の本音を打ち明けられた日の夜、もうすでに柊斗に報告を済ませていた。《お母さんたちに話せたよ。いつでもあの場所に行けるからね》と。それを見た柊斗からは、《俺も頑張る。また向き合えたら、きちんと連絡するから》と送られてきた。彼とのやり取りはそれきりだ。

……もちろん無理強いするつもりはないし、柊斗は柊斗のタイミングでいいと思っている。今回向き合えなくとも、決して柊斗のことを責めたりはしない。

だって、私はもうすでに知っているから。自分や家族と向き合うことの難しさを。

だから私は、気長に待っていよう。

柊斗のことを、ただ心の底から信じて。

……そうしてスマートフォンに届くメッセージをこまめに確認しながら柊斗を待つこと一日。柊斗からの待ち望んだ連絡が入ったのは、夕方六時半頃だった。

《もうこんな時間だけど、今から会えないかな。凪に伝えたいことがあるんだ》

たったそれだけの文章だったけれど、私には分かる。きっと柊斗は、自分の気持ちを伝えることができたのだと。

私は急いで一階へ降りると、料理の仕込みをしていたお母さんを呼び止める。

そして、今から友達に会いに出かけたいということ、少し帰りが遅くなるかもしれないということ、……これは、とても大切な用事だということを訴えた。

「その友達っていうのは、あかりちゃん?」
「ううん。塾に行ってから仲良くさせてもらってる、柊斗っていう男の子」
「……ああ、以前写真見せてもらったわね。あの優しそうな男の子ね」

お母さんはやんわりと目尻を落とすと、安心したように笑う。

「いいわよ、気をつけて行ってらっしゃい。あ、でも、あまり遅くなりすぎないようにね。塾終わりと同じ時間くらいには帰ってきなさいよ。夕飯は置いておくから」

そう言って、お母さんは優しい笑顔を私に向けてくれた。

「ありがとう、お母さん」

私はそんなお母さんにお礼を伝えると、慌てて自室へ戻りスマートフォンを手に取る。そして先程のメッセージに了承の返事をする。

その内容の中に、待ち合わせ場所と、今からそこに向かうということを記し、必要最低限のものだけをバッグに詰めた私は、すぐさま家を飛び出した。