吐き出した台詞は震え、噛み締めた唇はジンと痛む。
思いを伝えることができた安堵感と、どう思われているのか想像もできない恐怖と。様々な感情に囚われ、どうしていいのかも分からない。
「我儘で、臆病な娘でごめんね」
最後に消え入りそうな声で放ったのは、自分の本心である、謝罪の言葉だった。
……もう、限界だ。
私の瞳からはポタポタと無数の雫がこぼれ落ち、ジーンズにいくつものしみを作る。
こぼれる涙も、漏れる嗚咽も、何一つ止まらない。お母さんやお父さんの顔を見ることもできず、ただ俯き、泣いていた。
……でも、その時。私の身体が、暖かいものに包まれる。それはなんだかとても懐かしい温もりで、私が忘れかけていた匂い。頭で思うよりも先に、心が感じていた。……ああ、お母さんだ、と。
「……ごめんね、凪」
耳元で聞こえたのは紛れもなくお母さんの声で、その声は分かりやすく震えている。……お母さんも、泣いているんだ。
それに気付いた時、また大粒の涙が頬を伝う。
「お母さん、何にも凪の気持ちに気付いてやれなかったんだね。凪がきっと勇気を振り絞って相談してきてくれたことも、結果蔑ろにしてしまった」
「……っ、ごめん」
「違う。凪が悪いんじゃない。お母さんね、必死だったの。蓮を守らなきゃって。だから、知らず識らずのうちに甘えてたんだと思う。いつも笑って許してくれる、凪の優しさに。その裏にある凪の寂しさや苦しみなんて、考えようともしなかったの。……あなたも私たちにとって、蓮と同じくらい、大事で大切な娘なはずなのに」
お母さんはそう言って、私の身体をきつく抱きしめる。私もそっと目を閉じ、お母さんの服をきゅっと握りしめた。
「お母さん、凪のことが大好きよ。凪が私たちの間に生まれてきてくれて、本当に幸せだと思ってる。それなのに、お母さんはあなたのことを後回しにしてばかりだった。寂しい思いをさせて、本当にごめんなさい……」
啜り泣きながら話すお母さんの姿は、また私の涙を誘う。お母さんは、私を身ごもっている時も、私が生まれてからも、そして蓮という新たな家族ができてからも。ずっと見えない愛情を注ぎ続けてくれていた。
そしてそれはきっと、お父さんも同じ。
「凪、ごめんな。父さんも、凪の気持ちに気付いてやれなかった。でも、お前もまだ十七だもんな。しっかりと俺たちが話を聞いて、支えていかなければいけなかったのに」
そう言って頭の上に置かれたお父さんの掌は、ポンポンとゆっくりとしたリズムを刻む。
「本当にごめん、凪。でもこれだけは信じてくれ。父さんも母さんも、蓮や凪のことが世界で一番大切なんだ。どちらが一番なんてない。二人とも、俺の子だから。凪と蓮。父さんたちは、二人をいつまでも愛している」
静かに語るお父さんの言葉はとても優しく、私の心に真っ直ぐに響く。二人の温もりは、真っ直ぐに私の中に入り込んできて。
お母さんが私のお母さんでよかったと、お父さんが私のお父さんでよかったと、心の底からそう思えた瞬間だった。
「……お父さん、お母さん」
絞り出した声は、もう恐怖や不安に震えてはいない。今の私は、安堵感と感謝に溢れている。
「私のことを、生んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう。そして、私に。大切な兄弟を作ってくれて、ありがとう」
溢れた言葉は、私の本心。嘘偽りない、私自身の気持ち。
「……凪、こちらこそ、私たちの娘でいてくれてありがとう」
未だ涙を流すお母さんを見上げ、私も泣きながら笑う。
心の中は曇り空が晴れたかのようにスッキリとしていて、私はようやく、今まで戦い続けてきた弱虫な自分に本当の意味でさよならを告げることができた気がした。