「ずっと、寂しかったんだと思う」

とても小さい声だったけれど、テレビの音も、騒がしく走り回る蓮もいない。静まり返ったこの部屋の中では、両親の耳にもちゃんと届いているだろう。

その証拠に、お母さんが短く相槌を打つ。

私は床に視線を落としたまま、今のありのままの思いを吐露し始めた。

「あまり意識したことはなかったけど、蓮が喘息を発症してから、いつもお母さんやお父さんは蓮を見ていたよね。私はいつも、後回しにされているようで。今思えば、きっと蓮がすごく羨ましかったんだ」
「……うん」
「私、小学五年生の時、友達の頼みを断ったら、軽い悪口を言われるようになって。友達との関係が上手くいかず、とても悩んでたの。そしてそれを一度、お母さんに相談しようとした。でもタイミングが悪くて、蓮がちょうど調子を崩しているときで。お母さん、私に言ったの。『今はちょっと蓮のことで手一杯だから、また今度ね。お姉ちゃんだから大丈夫よね、お父さんと留守番よろしくね』って」
「そんなこと……」
「 お母さんは、憶えていないかもしれないけど。その後私が笑顔を見せると、お母さんも優しく笑ってくれた、その時、思ったんだ。こうして自分の本音は閉じ込めて、何もかも受け入れて笑っていればいいんじゃないのかなって」

言葉を詰まらせながらも、懸命に言葉を紡ぐ私。そんな私は、今、両親の目にはどんな風に映っているのだろう。

私は過去の日々を思い返す。

……参観日の日、周りの友達はみんなお母さんやお父さんに囲まれているのに、私だけ一人ぼっちだった。なぜなら、お母さんは蓮の検査に付き添い、お父さんは仕事を休めず働きに出かけていたから。

それから、中学の時に入っていた部活動で、私が初めての試合に出た時も。私の両親は応援席にはいなかった。なぜなら、ちょうどその日、蓮の緊急入院が決定して、二人ともそっちに駆けつけていたから。

でも、私はいつも笑っていた。嫌だも、私の参観日にきても、何の我儘も言うことなく、いい子を演じて生きてきた。

そしてそれが、今の私へと繋がった。自分の意見を言うのが苦手で、自分にとって不利なことでも受け入れてしまう。誰かを頼ることすらできなくて、それ故に友達をイラつかせてしまって。小さなことが積み重なって、きっと今の私がここにいる。

「どこかで、お母さんやお父さんを一度頼ることができたらよかったのに。私はそれをしなかったんだ。……自分のことを曝け出して、迷惑だと思われてしまうのが嫌だったから」