自宅へ辿り着く、数分前。

ふと、今は何時なのだろうと思い、スマートフォンの画面を付ける。時刻を確認すれば、どうやら先程十四時を少し回ったばかりみたいだ。

確か今日の十六時半にお母さんが蓮の入院に足りない荷物を一旦家に取りに帰る予定なのだけれど、ちょうどお父さんが十七時前までには仕事から帰ってくるらしい。だからお父さんの帰りを待って、私とお母さんとお父さん、三人で蓮のお見舞いに行くことが決まっている。

……二人に私の思いを打ち明けるなら、その時がちょうどいいタイミングだ。

改めてその事実を実感した私は、どうしよう、と得体の知れない恐怖と不安に襲われる。それもそうだ。

自分の思いを言葉にして誰かに伝えるのはやっぱりまだ得意ではないし、私の気持ちを聞いてお母さんやお父さんがどう思うのかと想像すると、やっぱり物凄く怖い。

けれど、それでも私は頑張りたい。

今まで自分の気持ちを全て押し込めながら逃げていた私にさよならを告げ、きちんと自分自身や家族と向き合いたいと、そう強く思うから。

結局、自宅へ帰るまでも、帰ってからも。私の緊張は解けることなく、それどころか大きく増すばかり。もう今日はいいか、と諦めてしまいそうな時には、あかりがくれた言葉や柊斗のことを思い出し心を奮い立たせた。

約束の十六時前にはお母さんとお父さんが二人揃って帰宅したのだが、その時にはさらに色んな思いが交錯して、緊張はピークにも達していた。

世の中には〝口から心臓が飛び出してしまいそう〟という比喩があるが、今の私のためにその表現は出来たのではないかと思ってしまうほど、心臓はバクバクと勢いよく鳴っている。

「凪、お父さんもお母さんも、もうすぐ準備が終わるから、あなたもそろそろ降りてきなさい」

蓮の病院へ持っていくタオルや下着類を準備していたお母さんが、二階にある自室にいた私に向かって叫ぶ。

ああ、とうとうその時が来てしまった。

覚悟を固めた私は、階段から落ちないように一歩一歩足を進める。お母さんたちはどうやらリビングにいるみたいで、忙しなく動く足音が近付くにつれ、私の足や手先が分かりやすく震え始めた。

「凪、降りてきたのね。すぐに出発できるの?」

それでも懸命に一階に向かい、リビングへ足を踏み入れた私の視界に、荷物を整理しているお母さんとお父さんの姿が映る。

そしてお母さんは降りてきた私に気付いたのだろう。すぐに顔を上げ、私の方を見た。