「お姉ちゃん?どうしたの?」

気付けば蓮がこちらを振り向き、私の目の前で掌をひらひら揺らしている。どうやら色々なことを考えているうちに、ボーッとしてしまっていたみたいだ。

「ううん、なんでもないよ。身体拭くから、先にパジャマ着ようね」
「本当?お姉ちゃん、少しだけ寂しそうな顔してなかった?僕が凪お姉ちゃんのこと、守ってあげるからね」
「……お母さんやお父さん、それに蓮がいてくれるから、寂しいとか、そんなことはないよ。でも、ありがとう」

図星を突かれてドキッと胸が鳴ったけれど、慌てて私は笑顔を見せる。こどもは大人が思っているよりもよく感情を読み取っている、と何かのテレビで見たことがあるが、それは本当なのかもしれないと少し驚いた。

そしてそれと同時に、私の目に映る屈託のない無邪気な笑顔。僕がお姉ちゃんを守るのだという、ヒーローのような眼差し。こんなにも真っ直ぐに自分の思いを表現できる弟が少し羨ましいなあと思う。

私はいつも周りに合わせて平穏に毎日を生きていくことしかできないから。私も、蓮のように自分の気持ちを言葉にして素直に生きられたらと、そう感じてしまった。

「ほら、蓮。次は髪の毛乾かそっか」

このまま色々もやもやと考えてしまっても、嫌なことを思い出して気分が落ちてしまいそうで、私はわざと明るい声色で蓮に話しかける。そしたら蓮もにこにこと可愛らしい笑みを浮かべながら、「うん」と大きく頷いてくれた。

その様子を見た私は洗面台の引き出しにしまってあったドライヤーを出し、蓮の髪の毛をわしゃわしゃと乾かし始めたのだった。