それから暫くして想子からメールが入った。
――よかったら、あの時撮ったお姉ちゃんの写真を見せてもらえませんか。
僕はまだ現像していない事を正直に伝える。想子は僕の気持ちを察したのか、ごめんと謝ってきた。
僕はやっぱり今も逃げている。
想子がインスタントカメラの事を言い出してから、僕はその存在を否定しきれずにいた。
そのカメラを目の前に置いて僕は恐れる自分の心と戦う。
映見を失ってしまったことに向き合うのが怖い。あの時の映見の笑顔を見るのが辛い。
でも僕は映見に会いたい。本当は会いたくてたまらない。
インスタントカメラを見つめているうち、僕が写した時の事がはじけるように蘇ってくる。
『透! ベストをつくせ』
映見の声が聞こえたように思う。
顔の筋肉を大胆に動かしたともいえる笑顔が目に浮かぶ。
『何してるの、早く現像しなさい』
いたずらに白い歯を見せてにたついて僕をせかす。
『本当は見たいくせに』
耳元に近づいて囁くように煽る。
『ほら、ほら』
「そうだよ、本当は映見の笑顔が見たいんだ」
僕は思わず叫んでいた。
その勢いに僕は乗る。怖がっていてはこの先何もできなくなると自分に言い聞かせた。
『全てが上手くいくの』
映見ならきっとそういうだろう。
僕はカメラを持って家を飛び出す。隣町まで電車に乗って現像してくれる場所を見つけ手続きをとった。その一時間後には僕の手元に写真となってあっさりと帰って来た。
いざ、封筒に入った写真を手にするとレトロな文化なのに新鮮だった。
スマホやコンピューターで画像を見ることに慣れていると、手の中の写真に重みを感じた。
僕は駅にあったベンチに腰掛け、深呼吸してから写真を袋から取り出す。胸がドキドキとして手が震えていた。まだこの時点では目を瞑っていた。
そして目を開けたとき、そこにはにっこりと笑う映見が懐かしく写っていた。
「映見!」
思わず声に出して名前を呼んでいた。
夢中になって一枚一枚丁寧に見ていく。僕の腕が悪く、上手く撮れてないのもあるけど、写真の中の映見はいつも笑ってこっちを見ている。
これを撮った時の僕は悔しい思いを抱いてシャッターを押していたけど、映見はずっと僕を見ていてくれていた。
買い物に付き合って入ったハンバーガー屋の中で撮ったぼやけたもの、ウサギのぬいぐるみを着てチャレンジしたときのもの、本屋さんで撮った時のもの、神社の前、スーパーの中ではこけて判別不可能にぶれているもの、ばあちゃんが撮ってしまったふたりで写っているもの、プランターと一緒に写っているもの、タクシーから撮り損ねたときのもの、図書館で妖しい人と間違われて焦ってシャッターを押してしまったもの、サッカーボールが飛んできたときのもの、コロッケを頬張っている姿のもの、だまし討ちを何度か試したもの、髪の毛が短くなって柴太君と頬寄せ合って写ってるもの、ばあちゃんといっしょに写っているもの、ここまでは、思い出と一緒に楽しんでみていた。
そして最後の一枚。
これを見るのが一番辛かった。
意識がない映見。僕が写真を撮ってることすらわからなくなってしまった。
僕はその写真を見るのを躊躇った。でもこれ以上逃げるのも嫌だった。映見の最後の生きている姿。僕はそれに向き合う。
「えっ!」
その写真を見たとき、大いに僕は驚いた。僕は映見チャレンジに勝ったと思っていた。だけど、カメラ目線じゃなくても、その写真に写る映見は微かに笑っている。信じられないけど、まるで僕が写真を撮るのをわかって微笑んでいるようにしか見えない。
「まさか、でも、これは」
僕はこの勝負に負けていた。映見は最後までカメラを意識して笑っていたのだ。
僕の目には確かに映見が笑っているように見える。だから、映見の勝ちだ。
僕は映見のしつこさに笑うしかなかった。だけど一緒に涙も出てきて、泣いているのか笑っているのか自分でも分からなくなっていた。
僕は想子にすぐにメールを送った。
――映見の写真を現像した。すぐにでも見せたい。
返事は速攻で返ってきた。
――今、柴太君と河川敷のドッグランにいる。来れる?
僕はすぐにそこに向かった。
――よかったら、あの時撮ったお姉ちゃんの写真を見せてもらえませんか。
僕はまだ現像していない事を正直に伝える。想子は僕の気持ちを察したのか、ごめんと謝ってきた。
僕はやっぱり今も逃げている。
想子がインスタントカメラの事を言い出してから、僕はその存在を否定しきれずにいた。
そのカメラを目の前に置いて僕は恐れる自分の心と戦う。
映見を失ってしまったことに向き合うのが怖い。あの時の映見の笑顔を見るのが辛い。
でも僕は映見に会いたい。本当は会いたくてたまらない。
インスタントカメラを見つめているうち、僕が写した時の事がはじけるように蘇ってくる。
『透! ベストをつくせ』
映見の声が聞こえたように思う。
顔の筋肉を大胆に動かしたともいえる笑顔が目に浮かぶ。
『何してるの、早く現像しなさい』
いたずらに白い歯を見せてにたついて僕をせかす。
『本当は見たいくせに』
耳元に近づいて囁くように煽る。
『ほら、ほら』
「そうだよ、本当は映見の笑顔が見たいんだ」
僕は思わず叫んでいた。
その勢いに僕は乗る。怖がっていてはこの先何もできなくなると自分に言い聞かせた。
『全てが上手くいくの』
映見ならきっとそういうだろう。
僕はカメラを持って家を飛び出す。隣町まで電車に乗って現像してくれる場所を見つけ手続きをとった。その一時間後には僕の手元に写真となってあっさりと帰って来た。
いざ、封筒に入った写真を手にするとレトロな文化なのに新鮮だった。
スマホやコンピューターで画像を見ることに慣れていると、手の中の写真に重みを感じた。
僕は駅にあったベンチに腰掛け、深呼吸してから写真を袋から取り出す。胸がドキドキとして手が震えていた。まだこの時点では目を瞑っていた。
そして目を開けたとき、そこにはにっこりと笑う映見が懐かしく写っていた。
「映見!」
思わず声に出して名前を呼んでいた。
夢中になって一枚一枚丁寧に見ていく。僕の腕が悪く、上手く撮れてないのもあるけど、写真の中の映見はいつも笑ってこっちを見ている。
これを撮った時の僕は悔しい思いを抱いてシャッターを押していたけど、映見はずっと僕を見ていてくれていた。
買い物に付き合って入ったハンバーガー屋の中で撮ったぼやけたもの、ウサギのぬいぐるみを着てチャレンジしたときのもの、本屋さんで撮った時のもの、神社の前、スーパーの中ではこけて判別不可能にぶれているもの、ばあちゃんが撮ってしまったふたりで写っているもの、プランターと一緒に写っているもの、タクシーから撮り損ねたときのもの、図書館で妖しい人と間違われて焦ってシャッターを押してしまったもの、サッカーボールが飛んできたときのもの、コロッケを頬張っている姿のもの、だまし討ちを何度か試したもの、髪の毛が短くなって柴太君と頬寄せ合って写ってるもの、ばあちゃんといっしょに写っているもの、ここまでは、思い出と一緒に楽しんでみていた。
そして最後の一枚。
これを見るのが一番辛かった。
意識がない映見。僕が写真を撮ってることすらわからなくなってしまった。
僕はその写真を見るのを躊躇った。でもこれ以上逃げるのも嫌だった。映見の最後の生きている姿。僕はそれに向き合う。
「えっ!」
その写真を見たとき、大いに僕は驚いた。僕は映見チャレンジに勝ったと思っていた。だけど、カメラ目線じゃなくても、その写真に写る映見は微かに笑っている。信じられないけど、まるで僕が写真を撮るのをわかって微笑んでいるようにしか見えない。
「まさか、でも、これは」
僕はこの勝負に負けていた。映見は最後までカメラを意識して笑っていたのだ。
僕の目には確かに映見が笑っているように見える。だから、映見の勝ちだ。
僕は映見のしつこさに笑うしかなかった。だけど一緒に涙も出てきて、泣いているのか笑っているのか自分でも分からなくなっていた。
僕は想子にすぐにメールを送った。
――映見の写真を現像した。すぐにでも見せたい。
返事は速攻で返ってきた。
――今、柴太君と河川敷のドッグランにいる。来れる?
僕はすぐにそこに向かった。