ばあちゃんの腰の痛みはすぐには引かなかったけど、この連休で自力で立ち上がれるくらいにに回復した。映見はその間毎日やってきて、ばあちゃんの世話を手伝ってくれた。

 すっかり初夏の兆しが強くなり、昼下がりに縁側で映見は腰掛けて田園風景が広がる景色をまぶしそうに見ていた。

 家の周りにある畑で育つ野菜を見て、映見も何か植えてみたいと言い出すと、クッションの上に横たわっていたばあちゃんは好きなものを植えたらいいと場所を提供する。

「いいんですか」

「いいよ。で、何を植えたいんだい」

 映見はばあちゃんの側に寄って何かを話し合い、ばあちゃんはうんうんと相槌を打つ。

「それならプランターがいるな。透、納屋に長方形のプランターがあるから、それを後で出しといて」

「何を植えるの?」

 僕が訊けば、映見は言わないでとばあちゃんに向かって首を横に振る。

「それは育ってからのお楽しみなんだって」

 ばあちゃんが言った横で、映見はにたっと笑っていた。

 僕は言われたとおりにプランターを納屋から出し、ついでに土をいれ準備を整えておく。裏庭の日当たりのいい場所に置いておくと、映見は次の日、種を持ってきてそこに植えた。

「一体何が出て来るんだ」

 僕がもう一度訊いた。

「すごいんだから」

「だから、何が?」

 映見は最後まで教えてくれなかった。

「ねえ、今日の分はこのプランターの前で写真撮って」

 隠し撮りなんて映見もどうでも良くなっているようだ。仕方なく映見の望みどおりに写真を撮った。

 連休はこの日が最終日。カウンターを見れば残り十三となっている。

 ばあちゃんが勝手に僕たちの写真を撮ってから、僕はやっぱり映見に気がつかれずに写真を撮る事ができないでいた。

 ばあちゃんの前では変な事をするのが憚られて、真剣に挑めなかったのもあったけど。

 この連休を映見とずっと一緒に過ごすと、このまま不幸なことなど何事もないんじゃないかって思ってしまう。

 僕は自分の過去の事を忘れそうになっていた。そんな簡単に片付けちゃいけないことだったのに。映見の笑顔を見ているうちに、僕は許されたように鏡の力を持つ映見が跳ね除けてくれたのではと淡い思いを抱いていた。

 だからこの後僕はガツンと痛い目を見ることになった。