「メール見てびっくりした。おばあちゃんは大丈夫?」
「本人は大丈夫だっていってるけど、かなり痛そうにしてる」
「なんか手伝えることある?」
「気にしなくていいから。それと暫くちょっと外へ出られそうもないんだ。それで当分写真撮るのはできない」
「えっ、それは困る。あれは一日に一枚撮らないと」
こんな大事な時だというのに映見も譲らない。
「困るって言われても、ばあちゃんが動けないから付きっ切り看病しないと」
「だったら、私がそこへ行く」
「えっ、ばあちゃんの家に来るっていうのか?」
「うん。それに、もうお弁当の下ごしらえもしたから、明日作ってそれもっていく。透だけじゃ、ご飯の準備をするのも大変でしょ」
それもそうだった。
映見に押されて僕はばあちゃんの家の住所を教えた。
「これで透もまた写真を撮るチャンスができたね。私の隙を是非狙ってね」
楽しそうに煽ってから電話は切れた。
これでよかったのだろうか。
ばあちゃんに映見が来る事を言えば、ニヤニヤと僕を冷やかすように笑った。
「へぇ、透のガールフレンドが来てくれるのかい。透もそんな年になったんだね」
「違うって、ばあちゃん。これには理由があって」
「まあまあ、恥ずかしがることないって。未可子が生きていれば同じように喜んだと思うよ。それとも透を取られるのがいやで、ヤキモチ妬いたかもしれないな。未可子は透の事が大好きだったからね」
それを聞くと僕は胸の奥が疼いた。未可子さんが死んだのは僕のせいかもしれないのに。
「未可子は子供がもてなかったから、透の母親になれて本当に幸せだった」
「僕の父と結婚せずに他の人と結婚してたら、自分の子が持ててもっと幸せだったかもしれない」
僕と知り合わなかったら生きてたかもしれないのに。
ばあちゃんは驚いた顔をしたあと、僕を深い眼差しで見つめた。
「未可子は一度結婚してたの知らないのかい? そこでも子供ができなかった。どうしてもそこは跡取りが必要だったから離婚したんだけど、その後で透の父親と再婚したんだよ。未可子は自分が不妊症ってわかってたんだ。だから透の母親になれたことが未可子の喜びだった」
そんな話、全然知らなかった。
「未可子は透のお陰で本当に幸せだったよ」
「でも死んでしまったら意味ないじゃないか」
「そりゃ残されたものには悲しいし、辛い。だけど、最後まで本人は幸せだった。その幸せを与えたのは透だ。そして、未可子が私にもそれを分けてくれた。透は本当にいい子だ。ありがとうな」
僕はどう答えていいかわからなかった。
死神の僕が未可子さんの命を奪った。そんな僕がばあちゃんにお礼を言われる資格なんてないのに。
「あいたたたたた」
ばあちゃんは動こうとしてまた顔を歪めて嘆いていた。
「ばあちゃん、大丈夫」
「ああ、透、トイレに行きたいんだけど、支えてもらえるか」
ばあちゃんは布団から起き上がろうとするが、少しの動きだけで悲鳴を上げた。立ち上がるだけでも一苦労だった。
僕の力だけではばあちゃんの世話ができないと悟ってしまい、映見が早く来てくれるのを願ってしまった。
その晩は僕もばあちゃんの側で布団を敷いて寝た。寝ている間、ばあちゃんは腰の痛みを忘れられたようだ。
そして朝になり、玄関の呼び鈴の音が家中に響いたことで僕もばあちゃんも目が覚めた。時計を見れば朝の八時を過ぎた頃だった。
朝早く誰だろうと眠い目をこすり玄関の引き戸を開ければ、映見がいつものスマイルで両手に荷物を下げて立っていた。