「本日も楽しいひと時をありがとう」
文庫本を二冊買って書店を出た後、映見は僕に言った。
「楽しいひと時って、一体僕はなんのためにこんな事をしているのかわからなくなるよ」
「私だって危険を冒しているんだから。透にもちゃんとチャンスをあげているでしょ」
「でも僕は君から離れようとして、結局君との接点が増えてしまっている」
「でも約束だからね」
約束といっても、映見の策略にはまってるだけだ。
ため息混じりに歩いていると、店から店員の声が聞こえてきた。
「さあ、今日で平成最後のセール。この機会をお見逃しなく」
そういえば、明日の五月一日から元号が令和に変わるんだった。一ヶ月前に元号を前もって発表された。
「明日から令和だね」
映見も言い出した。
映見も僕も平成生まれだから元号が変わるなんてなんだか変な気持ちだ。一体どんな時代になるのだろう。
令和になれば変化が起こるだろうか。和香ちゃん、郁海ちゃん、未可子さんはこんな時代が来るとは知らずに逝ってしまった。
僕が黙っていると、映見は独り言のようにまた喋る。
「令和の次はなんだろうね」
「えっ、もう次の元号の事が気になるのか?」
「次もやっぱり知りたい」
確かに令和が発表される前は、テレビ中継がされて日本中がなんだかわくわくとしていたように思えた。
新しい時代を迎えるか……。
「それじゃ、令和になった明日はどこに行けばいい?」
僕は尋ねた。
「神社に行こう。いつも待ち合わせしている駅からそんなに離れてないところに、小さい神社があるでしょ。朝九時にそこに来て」
名前すらでてこないけど、僕も何度かその前を歩いたことがある。有名ではないけども地域に密着した親しみのある神社だ。
「令和元年の初詣かい?」
「そう。有名なところは込み合うだろうし、近場で一緒にお参りしよう」
目的がお参りになっているが深く突っ込むこともなく、僕は承諾する。映見に言われなければ、初詣なんてすることもないだろう。
「それで、映見は何を願うんだ?」
「このまま透と一緒にいられますように。イヒヒヒ」
この笑いは僕に挑戦しているとみた。
「だったら僕は、映見に気づかれないように写真が撮れますようにと願う」
「いやいや、神様はきっと私の願いを先に叶えてくれる」
「僕の方が先だ!」
僕はガキのようにむきになってしまう。周りに居た何人かが僕を振り返れば、僕は恥ずかしさで少し萎縮してしまった。それとは対照的に映見は落ち着いて答える。
「別にそれでもいいよ」
「えっ?」
「後から私の願いが叶うんだったら、先に透の願いが叶っても全然問題じゃない」
僕はなんだか矛盾を感じて考え込んだ。
眉間に皺を寄せて困っている僕を見て、映見は口元を綻ばせていた。その微笑がとても優しく僕の瞳を捉えた。
僕はこの時、複雑に心が揺れ動いてしまう。それを払拭しようとカメラを力強く握り締めた。
文庫本を二冊買って書店を出た後、映見は僕に言った。
「楽しいひと時って、一体僕はなんのためにこんな事をしているのかわからなくなるよ」
「私だって危険を冒しているんだから。透にもちゃんとチャンスをあげているでしょ」
「でも僕は君から離れようとして、結局君との接点が増えてしまっている」
「でも約束だからね」
約束といっても、映見の策略にはまってるだけだ。
ため息混じりに歩いていると、店から店員の声が聞こえてきた。
「さあ、今日で平成最後のセール。この機会をお見逃しなく」
そういえば、明日の五月一日から元号が令和に変わるんだった。一ヶ月前に元号を前もって発表された。
「明日から令和だね」
映見も言い出した。
映見も僕も平成生まれだから元号が変わるなんてなんだか変な気持ちだ。一体どんな時代になるのだろう。
令和になれば変化が起こるだろうか。和香ちゃん、郁海ちゃん、未可子さんはこんな時代が来るとは知らずに逝ってしまった。
僕が黙っていると、映見は独り言のようにまた喋る。
「令和の次はなんだろうね」
「えっ、もう次の元号の事が気になるのか?」
「次もやっぱり知りたい」
確かに令和が発表される前は、テレビ中継がされて日本中がなんだかわくわくとしていたように思えた。
新しい時代を迎えるか……。
「それじゃ、令和になった明日はどこに行けばいい?」
僕は尋ねた。
「神社に行こう。いつも待ち合わせしている駅からそんなに離れてないところに、小さい神社があるでしょ。朝九時にそこに来て」
名前すらでてこないけど、僕も何度かその前を歩いたことがある。有名ではないけども地域に密着した親しみのある神社だ。
「令和元年の初詣かい?」
「そう。有名なところは込み合うだろうし、近場で一緒にお参りしよう」
目的がお参りになっているが深く突っ込むこともなく、僕は承諾する。映見に言われなければ、初詣なんてすることもないだろう。
「それで、映見は何を願うんだ?」
「このまま透と一緒にいられますように。イヒヒヒ」
この笑いは僕に挑戦しているとみた。
「だったら僕は、映見に気づかれないように写真が撮れますようにと願う」
「いやいや、神様はきっと私の願いを先に叶えてくれる」
「僕の方が先だ!」
僕はガキのようにむきになってしまう。周りに居た何人かが僕を振り返れば、僕は恥ずかしさで少し萎縮してしまった。それとは対照的に映見は落ち着いて答える。
「別にそれでもいいよ」
「えっ?」
「後から私の願いが叶うんだったら、先に透の願いが叶っても全然問題じゃない」
僕はなんだか矛盾を感じて考え込んだ。
眉間に皺を寄せて困っている僕を見て、映見は口元を綻ばせていた。その微笑がとても優しく僕の瞳を捉えた。
僕はこの時、複雑に心が揺れ動いてしまう。それを払拭しようとカメラを力強く握り締めた。