ばあちゃんちに引っ越してくる以前は、ここよりも都会だといえるくらいの便利な街中で父と暮らしていた。高校入学をきっかけに僕はここへ来ることを自ら望んだのだ。

 それ以前からもちょくちょくばあちゃんの家には押しかけていたけども。まあ、僕にとったら居心地のいい場所には違いない。

 僕は学校でもやたらと暗い。もう少し身なりを気にして髪を今風にスタイリッシュにすれば、そこそこイケてる感じも作れそうだが、そんなことはしたくない。

 小中学時代はかなり虐められ、僕は恐ろしいほど気味悪がられた。自分でも僕のような奴が側にいたら同じことを思うかもしれない。

 だって自分自身、僕はかなり最悪な奴だと自負しているからだ。

 僕は女の子に好かれたくないし、女の子を好きになりたくもない。

 だから高校は男子校を選んだし、極力女の子から遠ざかっている。僕は恋をするのが嫌なのだ。恋なんてろくなことがない。僕にとっても女の子にとっても。

 それなのに、今朝、学校近くの最寄りの駅に着いてたくさんの生徒たちに紛れて改札口に向かっていた時、改札口の向こう側にいた髪の長い女子高生の視線を感じて目が合った。

 ずっと僕を待っていたように、僕が改札口から出るとそわそわとしだして僕に近づいてくる。何かの間違いかと思いたかったけど、その女子高生は僕に桜色の封筒を突き出した。

 その封筒の色をピンクや桃色と表現しなかったのは、散った桜の花びらが駅周辺に落ちていたからだ。まるで木から零れ落ちていく桜の花びらが気まぐれに僕の目の前にやってきたようだった。

 じっと見つめるだけでそれを手にしようとしない僕に、彼女は無理やり僕の手を取ってそれを掌に置いた。

 そのあとはわざとらしく自分の腕時計を確かめるふりをして、さっさと走っていった。

「いっけない、遅刻、遅刻」

 長いつややかな黒髪を揺らして彼女が遠ざかって行く中で、微かにそんな声が耳に届いた。

 僕はどんな顔をしてその姿を見ていたのだろう。突然のことに訳がわからなくなっていた。

 この駅の周辺にはお嬢様学校といわれる女子高もあって、この駅を真ん中にして僕の通う男子校とまるで対になっているようにふたつの高校が存在していた。

 折角女子生徒のいない男子校を選んだのに、この状態は僕には想定外だった。

通学の行きと帰りに女子高生と出会う機会が多く、また運命を引き合わせるかのように僕の高校とこの女子高は高い確率でカップルになることが多いとも聞く。

 それを知ったのは入学してからで、すでに後の祭りだった。でも女子高の制服を見たとき、いいデザインだなと不思議と既視感を感じた。