腹ごしらえのあと、映見はショッピング街へと僕をいざなう。
「一体何を買うつもりだ?」
「パジャマが欲しいの」
「パジャマ?」
そうしているうちに映見はデパートの中へ入っていく。休みの日だけあって、人が多く歩きにくい。もたもたしていると映見とはぐれそうだ。
映見は時々後ろを振り返り、僕がついてきているか確かめながら目的の場所へと向かう。
僕はパジャマのようなおしゃれな寝巻きを着て寝ない。古いTシャツやスウェットパンツで事が足りる。
休日はそのまま着替えないでいても部屋着として過ごせる。パジャマなんてそんな上品なものが欲しいなんて、思ったことなかった。
エスカレーターを利用して上にいくうちに、映見の目指す階に着いた。映見はすでに売り場を把握しいて、すぐに目的地へと足を向けた。
僕がその後を追っていくと、目の前にパジャマやバスローブなどがディスプレイされているのが目に入る。
明るく優しい色合いで統一されているその売り場は心地よい眠りを誘うような雰囲気だ。
映見が好みのものを探し出したので、僕も適当にどんなものがあるのか見てみた。
胸に小さな馬のマークがあるだけのシンプルなパジャマの値段を見て目が飛び出る。
「何かお探しですか?」
ご丁寧に年配の女性から接客を受け、僕はしどろもどろになりながら映見に指を差した。
「あっ、お連れ様ですね。どうぞごゆっくりご覧下さい」
「どうも」
そういい残して、僕は映見の場所へと向かった。
映見はラックに掛かっていた中から二つ取り出し、僕にどっちが似合うかを見せたくて交互にそれを自分にあてていた。
「花柄もいいし、水玉もいいし、迷うな」
「なんでも似合うと思うよ。それに寝るときに着るだけなんだから、柄なんてどうでもいいんじゃないかな」
ちらりと値段を確かめながら僕がいうと、映見は首を振る。
「やっぱり寝ているときだって自分の気に入ったものを着たいわ」
女の子はそういうことに拘るのかもしれないけど、上下合わせて千円もしないようなものを着て寝ている僕には理解できない。
「直感で選べばいいんじゃないの?」
「それがどれもいい感じだから、迷うんじゃない。だったらさ、透が決めて」
「えっ、僕が? 変なの選んだらどうするんだ?」
「それでもいい。透が選んだものを着るのも中々楽しい」
簡単に僕が決めていいのだろうか?
僕はラックの中から目に付いたものを手に取った。少し明度が低い黄色生地に太い青の線と細い茶色いの腺が混じったチェック柄のものだった。僕にはその色合いが向日葵を想像させた。値段も手ごろだと思う。
それを映見に渡した。
「透はこれが私に似合うと思ったんだね」
「似合うっていうのか、これが映見っぽいカラーに思えた」
はっきり言って、結構派手だ。そこが映見の性格を表しているかに見えた。
映見は満足そうにそれを眺め、そのままレジへと持っていく。
果たして本当に気に入ったのだろうか。
僕に選んでといった手前、後に戻れなかったとしてもそれでいいと思った。
買い物が終わると、僕たちはどこか座れる場所がないか街の中を彷徨う。カフェショップに入ればよかったかもしれないが、どこも人でいっぱいだ。無駄にお金を使うのも憚られた。
量販店チェーンストアに入った時、憩いの場所っぽくベンチが置いてあったのでそこに腰掛ける。 買ったばかりのパジャマが入った紙袋を映見は膝の上で大切に抱えていた。
「疲れたね」
そんな言葉を発しながらも、映見は笑顔を絶やさない。
「それで、明日はどこへいくつもりだ?」
少しぶっきら棒に言った。
「私と一緒に居るのに飽きた?」
「飽きるも何も、早く条件に合った写真を撮りたいだけだ」
「やっぱり私に飽きたんだ」
「僕は最初から放ってほしいといってるじゃないか」
一緒にいることが映見のためにならないだけだ。僕は映見に呪いが発動しないか気がかりなだけだ。
「まあ、いいか。明日も私と合うつもりでいてくれてるんだから、それなら今度は透が予定を立てて。どこに行けばいい写真を撮れると思う?」
いい写真を撮るって、インスタ映えみたいな言い方だ。
「じゃあ、近場にしよう。いつもの場所で」
「いつもの場所って、あの駅前?」
「うん、朝十時でどうだい」
「十時? 別にいいけど」
「さっさと写真撮って終わるよ」
「それって、最初から諦めるってこと?」
こんなごみごみしたところを歩き回るのも疲れたし、折角の休みを映見に付き合うままで終わるのもなんだかしんどくなってきた。休みぐらいゆっくりしたいというのもあった。
「わかんないぞ、もしかしたら僕にはいい案があるかもしれない」
ただのはったりだった。
「わかった。明日朝十時、いつもの駅前だね」
映見は少し不服そうに繰り返す。何かが物足りなさそうだ。
そして僕たちは一緒の電車に乗って、途中で僕が先に電車を降りた。その間際に映見は言った。
「パジャマを選んでくれてありがとう」
僕が振り返れば、紙袋を胸に抱きかかえていた。なんて答えていいか迷っているうちに電車の扉が閉まる。
僕たちは言葉なくただ見つめ合う。そうしているうちに映見は電車と共に消えてった。
映見は僕の選んだパジャマを気に入っている。そう確信したとき、僕は選ばなければよかったと後悔していた。これで映見との距離が少し近づいたかのように思えたからだった。
「一体何を買うつもりだ?」
「パジャマが欲しいの」
「パジャマ?」
そうしているうちに映見はデパートの中へ入っていく。休みの日だけあって、人が多く歩きにくい。もたもたしていると映見とはぐれそうだ。
映見は時々後ろを振り返り、僕がついてきているか確かめながら目的の場所へと向かう。
僕はパジャマのようなおしゃれな寝巻きを着て寝ない。古いTシャツやスウェットパンツで事が足りる。
休日はそのまま着替えないでいても部屋着として過ごせる。パジャマなんてそんな上品なものが欲しいなんて、思ったことなかった。
エスカレーターを利用して上にいくうちに、映見の目指す階に着いた。映見はすでに売り場を把握しいて、すぐに目的地へと足を向けた。
僕がその後を追っていくと、目の前にパジャマやバスローブなどがディスプレイされているのが目に入る。
明るく優しい色合いで統一されているその売り場は心地よい眠りを誘うような雰囲気だ。
映見が好みのものを探し出したので、僕も適当にどんなものがあるのか見てみた。
胸に小さな馬のマークがあるだけのシンプルなパジャマの値段を見て目が飛び出る。
「何かお探しですか?」
ご丁寧に年配の女性から接客を受け、僕はしどろもどろになりながら映見に指を差した。
「あっ、お連れ様ですね。どうぞごゆっくりご覧下さい」
「どうも」
そういい残して、僕は映見の場所へと向かった。
映見はラックに掛かっていた中から二つ取り出し、僕にどっちが似合うかを見せたくて交互にそれを自分にあてていた。
「花柄もいいし、水玉もいいし、迷うな」
「なんでも似合うと思うよ。それに寝るときに着るだけなんだから、柄なんてどうでもいいんじゃないかな」
ちらりと値段を確かめながら僕がいうと、映見は首を振る。
「やっぱり寝ているときだって自分の気に入ったものを着たいわ」
女の子はそういうことに拘るのかもしれないけど、上下合わせて千円もしないようなものを着て寝ている僕には理解できない。
「直感で選べばいいんじゃないの?」
「それがどれもいい感じだから、迷うんじゃない。だったらさ、透が決めて」
「えっ、僕が? 変なの選んだらどうするんだ?」
「それでもいい。透が選んだものを着るのも中々楽しい」
簡単に僕が決めていいのだろうか?
僕はラックの中から目に付いたものを手に取った。少し明度が低い黄色生地に太い青の線と細い茶色いの腺が混じったチェック柄のものだった。僕にはその色合いが向日葵を想像させた。値段も手ごろだと思う。
それを映見に渡した。
「透はこれが私に似合うと思ったんだね」
「似合うっていうのか、これが映見っぽいカラーに思えた」
はっきり言って、結構派手だ。そこが映見の性格を表しているかに見えた。
映見は満足そうにそれを眺め、そのままレジへと持っていく。
果たして本当に気に入ったのだろうか。
僕に選んでといった手前、後に戻れなかったとしてもそれでいいと思った。
買い物が終わると、僕たちはどこか座れる場所がないか街の中を彷徨う。カフェショップに入ればよかったかもしれないが、どこも人でいっぱいだ。無駄にお金を使うのも憚られた。
量販店チェーンストアに入った時、憩いの場所っぽくベンチが置いてあったのでそこに腰掛ける。 買ったばかりのパジャマが入った紙袋を映見は膝の上で大切に抱えていた。
「疲れたね」
そんな言葉を発しながらも、映見は笑顔を絶やさない。
「それで、明日はどこへいくつもりだ?」
少しぶっきら棒に言った。
「私と一緒に居るのに飽きた?」
「飽きるも何も、早く条件に合った写真を撮りたいだけだ」
「やっぱり私に飽きたんだ」
「僕は最初から放ってほしいといってるじゃないか」
一緒にいることが映見のためにならないだけだ。僕は映見に呪いが発動しないか気がかりなだけだ。
「まあ、いいか。明日も私と合うつもりでいてくれてるんだから、それなら今度は透が予定を立てて。どこに行けばいい写真を撮れると思う?」
いい写真を撮るって、インスタ映えみたいな言い方だ。
「じゃあ、近場にしよう。いつもの場所で」
「いつもの場所って、あの駅前?」
「うん、朝十時でどうだい」
「十時? 別にいいけど」
「さっさと写真撮って終わるよ」
「それって、最初から諦めるってこと?」
こんなごみごみしたところを歩き回るのも疲れたし、折角の休みを映見に付き合うままで終わるのもなんだかしんどくなってきた。休みぐらいゆっくりしたいというのもあった。
「わかんないぞ、もしかしたら僕にはいい案があるかもしれない」
ただのはったりだった。
「わかった。明日朝十時、いつもの駅前だね」
映見は少し不服そうに繰り返す。何かが物足りなさそうだ。
そして僕たちは一緒の電車に乗って、途中で僕が先に電車を降りた。その間際に映見は言った。
「パジャマを選んでくれてありがとう」
僕が振り返れば、紙袋を胸に抱きかかえていた。なんて答えていいか迷っているうちに電車の扉が閉まる。
僕たちは言葉なくただ見つめ合う。そうしているうちに映見は電車と共に消えてった。
映見は僕の選んだパジャマを気に入っている。そう確信したとき、僕は選ばなければよかったと後悔していた。これで映見との距離が少し近づいたかのように思えたからだった。