そして次の日。昨日と同じように一度私服に着替えた。今度はつばが長めについた帽子を用意し、目深に被る。カメラはジャケットのポケットに入れ、今度こそ失敗のないように準備を整えた。

だが、いつもの場所に映見が居ない。

「あれ?」

 慎重に身を潜ませながら建物の影から辺りを確かめる。行き交う人々の中に映見の制服がないか目を凝らし、髪の長い女の子に注意しながら見ていたが、映見らしき女の子は見当たらなかった。

もしかしたら遅れるのかもしれない。

 そう思ったとき、肩を叩かれはっとする。振り返れば映見だった。

「見つけた」

「えっ、待ち合わせ場所はあっちだろ。なんで僕の後ろから現れるんだ」

「今日も私服で来るかもしれないって思ったの」

裏を読まれていた。

「嘘だとわかってたのか?」

「うん。なんかね、目線が透の左上を向いてたから、これは嘘だなって思ったの」

 映見の感はするどい。そういえばいい事を思いついた気持ちを抑えようと誤魔化すように視線を左上に向けていた。これが嘘をつく心理だったのだ。

「それで、こっちも身構えて隠れてたの。今回顔を隠すように帽子被ってたから、すぐにわかっちゃった」

 顔を隠すために用意した帽子も裏目にでていた。

 がっかりしている僕の気持ちなどどうでもいいように楽しそうに語る映見は、あまりにも無邪気すぎる。余計に悔しさが倍増した。

「嘘をついてもダメだってことだな」

 僕は自分の非を認めた。

「今回は見破いたけども、やっぱり嘘はいやだな。これも条件に加えようっと。嘘の情報を流してだまし討ちをして撮った写真は無効」

「えっ、そうくるか」

「だって、そんな手を使われて万が一成功したら悔しいじゃない」

「僕だって悔しい思いしてるんだぞ」

「透はそれでいいの。これは私の問題だから。私はやっぱり笑って挑みたいの」

 でた、映見の笑みだ。僕をあざ笑ってるのか、自信を得ているのか、大輪のひまわりのような笑顔を僕に向けている。

 いつも笑っている映見。映見が笑ってないところを想像する方が難しくなってきた。

「はいはいわかりました」

 また悔しい気持ちを抱きながらカメラを構える。ヤケクソでシャッターを押せば、パチッと乾いた音が虚しく耳に届く。

 この日のチャレンジも終わってしまった。