「えっ、な、なんだよ、急に」

「いい事思いついちゃった」

「何をだよ?」

 僕が訊いたその時、ホームから電車の入る放送が流れ出した。その後、軽やかなチャイムも流れると、電車がホームに入ってくる。

 映見さんは電車が近づいてくるのを見ながらニヤニヤしていた。電車に乗ればその後の話をするだろうと思っていたが、それ以上映見さんは思いついた事を僕には話さなかった。

 つり革をもって隣に立つ僕を時折り楽しそうにチラチラ見ている。一体何を企んでいるのだろう。

 そうしているうちに、僕の降りる駅に着く。映見さんは乗り換えなしにそのまま乗り続ける。ここでやっと僕は彼女から離れられる。

「それじゃ、また明日の朝、今日と同じように改札口で待ってるから。それから私のことは映見って呼び捨てで言ってみて」

 降りる僕の後ろから映見さんは声を掛けてきた。

 僕は何も言わずそのまま降りてさっさと乗り換えのホームに行けばいいものを、ドアの外で立ち止まりつい振り返ってしまった。

 頭の中では『映見』と呟く。

 映見さんは僕の呼び捨てした声がきこえたようにそれに反応して僕に手を振っている。僕は無視できず、弱々しく手を振り返した。そうしてドアが閉まって、電車がゆっくり動き出す。映見さんが去っていくのを僕は目で追いかけ、結局電車を最後まで見送った。

 電車が見えなくなると大きなため息がふーっと漏れた。鞄を肩にかけなおし、映見さんの事を思い出しながら僕は足を動かす。

 かつて初対面でこんなに馴れ馴れしい女の子に会った事あるだろうか。えっと、なんかあったっけ?

 死神と呼ばれてからいつも女の子には避けられていたし、そう呼ばれる以前であってもこんな話の通じない女の子とは出会ったことがなかった。あれ? やっぱり居たかな。自分の記憶の曖昧さに参ったなと困りながらも、どこかで心底嫌じゃなかったことに僕はハッとしてしまった。映見さんのペースに乗せられ、気が緩んでいたことに僕は危機感を覚える。

 僕は女の子と肩を並べて歩いちゃダメなんだ。話をしたらダメなんだ。僕は死神だ。それなのに、成り行きとはいえ映見さんと途中まで一緒に帰ってしまった。そして僕はそれを知らぬうちに受け入れていた。

 僕はぐっと足に力を込めて緊張感を出し、もう一度自分の立場を自分に叩き込む。これ以上映見さんに会わない事を肝に命じ、徹底的に避ける覚悟を決める。

明日は誰よりも早く学校にいけば、朝駅で会うこともない。簡単なことだ。この時まではそう思っていた。

「映見……」

ひとり事を呟くように僕は彼女の名前を知らずと呼び捨てにしていた。どこか胸が疼いては危機感に似た不穏な感情を抱いてしまった。