僕が避ければ言いだけの事を、僕はもっとややこしくしてしまっていた。ここでさっさと逃げればよかっただけだった。

 お人よしな僕が自分の気弱さを呪っている時、映見さんはニコニコと僕に迫ってくる。

「それじゃ帰ろうか。透の家はどこ? 私はね……」

 やっぱり僕の話を聞いてない。ひとりで自分のいいようにもっていく。それを跳ね除けられないから、まだ映見さんと一緒に過ごさないといけない。もし逃げようとしても途中の乗り換え駅まで同じ電車だった。途中までというのがまだ幸いだったかもしれない。とにかく今日のところは我慢だ。

 僕は口を固く閉じながら、彼女と肩を並べて駅に向かう。駅の構内に入れば、ホームで電車を待っている人たちの中に、僕たちと同じように肩を並べているカップルがいた。だから僕たちが一緒に居ても見かけ上なんら違和感がなかった。

 だけど強いていうなら、映見さんは同じ制服を着ている女子高生の中でもどこか目立っている。僕にははっきりした美的感覚はないし、顔で女の子を判断することもないのだが、すでに話をした後では映見さんに慣れたせいで親しみやすい顔に思えていた。

 はきはきとした態度と、惜しみなく見せる笑顔は彼女をかわいく見せ、実際彼女は整った顔をしているからかなり美人だと思う。もう一度確かめようと、ホームの向こう側を見ている映見さんの横顔をちらりとみれば、妙な感覚が横切ってふと違和感を覚えた。さっきまでの積極さがその時消えていたように思えたからだ。

 何かが違うと感じたけど、映見さんが僕の視線に気がついたときは、すでにその違和感も消えていた。

「一+一は?」

映見さんは脈絡なしににこやかに僕に問う。

「えっと、二」

条件反射で僕は答えると、映見さんは首を横に振る。

「もっと語尾を延ばして言ってみて。もう一度。一+一は?」

「二―?」

「だから、もっと口を横に開いてニィーーーーってな感じで」

 彼女が白い歯を見せてニィーと言ったその時、気がついた。それは笑えという意味だった。しょうもうない手を使って僕を笑ったことにしようとしている。

「それ、あれだね、写真を撮る時の、『はい、チーズ』と同じ手だね。その手は食わないよ」

 僕がそういったとき、彼女は閃いたように突然ポンと手を叩いた。

「あっ! そっか」