「いや、なんでもないよ」





「ふーん? ……変な蓮」





 情けなくて、思わず笑ってしまう。

 そんな僕を不思議そうに見つめながら海愛は首を傾げた。

 海愛の気持ちは十分に理解している。海愛が僕と距離を置いたのは、僕の体を心配しての行動だ。頭では分かっているつもりだ。それでも深層にある一般との越えられない壁を感じ、僕は言いようのない寂しさに襲われていた。



 普通の幸せが欲しい。



 それは、決して叶うことのない願い。愚かな夢。





「海愛、布団に入れ。まだ熱があるんだから」





「うん……せっかくお見舞いに来てくれたのに、ごめんね?」





 海愛は申しわけなさそうに頭を下げる。叱られた後の子犬のように。





「なに言ってんだよ、心配して来たんだから、余計に具合悪くなられたら困る」





 布団をかけてやり、僕はしばらく海愛の側に寄り添っていた。

 日が傾き始めた頃、僕は帰る支度を始めた。

 驚かせないように海愛の額に触れる。先ほどより少しだけ、また熱が上がったように感じた。





「じゃあ僕、帰るよ」





「……もう?」





 立ち上がろうとすると、服の裾すそを掴まれる。海愛はトロンと熱のある瞳で寂しそうに僕を見つめていた。僕は優しく海愛の頭を撫でる。