ゆっくりと視線を持ち上げると、改札の向こう側は本当に明るかった。……それもそのはず。

私と小夜がさよならと互いに言い合ったのは、日没前だったのだから。

振り向くと、そこには暗い夜空があって、でも前を向けば、向こう側はまだ日が昇っていて。

その光景を目の当たりにすると、ああ、私、本当に自分の過去の記憶の中にいるんだ、と思わざるを得ない。

……行かなきゃ、小夜の待つ場所へ。

まだ夢現な頭を懸命に働かせて、私は改札を通り抜けた。その瞬間、外を拭く風が冷たいものに変わったことに気がついた。

そうか、私のいた世界は夏だったが、この過去の世界は三月下旬。つまり、冬が終わりを告げた頃。風が冷たくなるのも当たり前か。

ここの最寄り駅は、日中もあまり利用客がいない。今日も人はおらず、自分の靴が床を擦る音だけが耳に響く。

駅を出た左側手に、もう撤去されたはずの公衆電話があって、私はゴクリと唾を飲んだ。そしてそこに映った、自分の姿。

「本当に、去年の私だ……」

全く違和感を感じなかったから気が付かなかったけれど、あの紙に書いていた通り、私は高校二年生の、当時の姿に戻っていたのだ。長袖の私服姿に、低めの位置で結ばれた二つ結びの髪。

間違いなく私は、この格好で去年、小夜に会いに行った。

それにしても、少しくらい違和感を感じたっていいじゃない。半袖が長袖に変わったんだから。いったい、この世界はどうなっているのか。考えれば考えるほど、不思議な気持ちは募るばかり。

「夢の世界の話だよ、本当……」

驚きを隠せず、思わずあんぐり開いた口が塞がらない。それでも、こんなところで立ち止まっているわけにはいかないんだ。行かなければいけないところがあるのだから。

駅を出た後に目指すのは、学校のそばにある公園だ。

よく小夜とブランコに乗って遊んだり、話に花を咲かせたりしていた。そこで、小夜と話す。

日が落ちる前の世界はまだまだ眩しく、キラキラと輝いて見えた。

……それから、歩くこと数分。

視界の隅っこに、通い慣れた高校が入る。公園は、道路を挟んだ斜め前の敷地。もう、この高校を目にすることはないと思っていたし、ないと思いたかった。

今となっては苦くてつらい思い出しかないこの校舎が、私の心を痛ぶるようにえぐる。ケラケラと響く部活帰りの高校生の笑い声が、私を嘲笑っているかのように聴こえてしまうのは、私自身の思い込みか。

胸の中心をくしゃっと強く抑えながら、私は小さく息を吐いた。