手続き中、つまり記憶を見られている間は、私は座っているだけでいいと説明をすでに受けている。
けれどこんなこと自体が初めての体験で、得体の知れない謎の緊張感に、身体が無意識に強張ってしまう。きつく握りしめた拳がふたつ、私の膝の上に置かれ、リラックスどころか、肘関節もピンと伸びてしまっている。
「緊張、してますね」
「……はい」
まるで、頑丈な石のようにカチコチになった私の身体を見て、車掌さんが柔らかく微笑んだ。
「本当に安心してもらっていいですよ。記憶を見るといっても、七海さんの方には何も起こりませんから。他の乗客さんから聞くのは、一瞬頭がふわっとした、という感想くらいですかね」
「一瞬、頭がふわっと……?ああ、余計になんか怖くなりました……」
そう言いながら、生唾をごくりと飲み込んだ私。車掌さんは、私の放った言葉に目を丸くし、そのあと申し訳なさそうに眉を下げた。
「それは、すみません……」
どうやら、私をさらに怖がらせてしまったことに罪悪感を抱いているみたいだ。でも、なぜかその表情が私の心をホッとさせる。
死神列車という名がつく列車の車掌さんだから、もっとこう、凶悪な雰囲気でもいいのに。この車掌さんは、全く怖さを感じさせない。
常に穏やかで、私の発言にころころ変わる表情が可愛らしくて、一緒に話していると自然に口角が緩んでいる。
「いえ、私、もともと初めてのことに不安を覚えやすいタイプなので、大丈夫です。手続き、よろしくお願いします」
私の言葉を聞いた車掌さんは、小さく頷く。
「はい、分かりました。じゃあ、七海さんはそのまま目をつむって、ジッとしていてくださいね。頭に掌を置かせていただきます」
そして、自分の掌を私の頭の上にそっと乗せた。髪の毛越しに伝わる車掌さんの掌はとても大きくて、妙に守られているという安心感が生まれる。
私はゆっくりとまぶたを伏せると、緊張を和らげるように小さく深呼吸を繰り返した。
「僕がいいというまで、立ったり、暴れたりなどしないでください。それでは、手続きに入ります」
その言葉が聞こえた数秒後、脳内がふわっと浮くような感覚が私の身に起こる。けれど車掌さんがさっき言っていたことは本当で、それはほんの一瞬の出来事だった。
不思議な感覚は数十秒も続くことはなく、そのあとはただ目をつむってジッとしているだけ。いつもなら寝ているはずの時間だということも関係しているのか、ずっとまぶたを閉じていると眠気が襲ってくる。
けれどここで寝るわけにもいかず、私は必死に自分の目を覚まそうと現在のこの状況を頭の中で整理する。
私、今、過去の記憶をこの人に見られているんだ……。
もう一度彼の掌に意識を集中すれば、そんなことを考えてしまい、自分の人生を見られている不思議さと、少しの恥ずかしさと、そんなものが混じり合って一瞬で目が冴えてしまった。