私は黙り込み、死神列車特有の黒床を眺めながら数分じっくりと考える。
出た結論は、死神列車に会いたいと心の底から願い、線路を真っ直ぐに見つめていた時と同じもの。
「……お願いします。私を死神列車に乗せてください」
私の声に、迷いはない。私はこの時改めて、自分の意思で死を選択した。
「はい、分かりました」
答えを聞いた車掌さんは、にこりと優しい表情だ。
「では、最初の駅へ出発する前に。先程お伝えしたいくつかの質問と、あなたが降車する駅を三つ決める手続きに入ります」
「手続き?」
「はい。簡単なものですので、そこまで深く構えなくて大丈夫ですよ。駅決めの手続きに関しては、今は置いて置きましょう。先に質問の方をさせていただいてもよろしいですか?」
手続きというものに若干の不安を覚えたけれど、車掌さんに深く構えなくていいと言われれば、それに従うしかない。
彼は手に持っていたファイルをパラパラとめくり、しばらくしてその手を止めた。
「では、早速。あなたの名前を教えてください」
「橋本、七海です」
紙を見ながら話しているところを見ると、どうやら、私の情報をそのページに記入していくようだ。私の予想通り、車掌さんはスラスラとペンを走らせている。
「七海さん。あなたはこの死神列車のことを、どこで知りましたか?」
「えっと、高校のクラスメイトが噂話をしていて、そこで知りました」
「では質問を変えますね。七海さんは、クラスメイトの噂話を聞いた後、どうして死神列車に乗車しようと思ったんですか?」
「……どうして、とは?」
「ああ、なんで死のうと思ったのか、って言った方が分かりやすいかな?」
ストレートな車掌さんの言葉に、思わず口を噤む。
私が死を決めた理由なんて、そんなの一つしかない。……クラスメイトからの、執拗ないじめ。途端に彼女たちの鬼のような顔が思い浮かんで、きつく目をつむる。
さっき彼が、精神にきついことも聞くと言っていたけれど、ああ、このことだったのか、と頭の片隅で理解した。
「……らす、メイトからの……」
「クラスメイトからの?」
「いじめ、です」
「……そうですか。最近、学生間でもヒートアップしたものが多いって言いますからね」
車掌さんはなんとも言えないように複雑そうな表情で、ファイルに視線を落とした。
自分がいじめられている、と他人に伝えることがこんなにも苦しいものなのか。
今まで小夜やお母さんにはいじめの事実を話せていなかったから、知らなかったけれど。自分以外の人に、いじめられているってことを伝えるのは、とても惨めで情けない気持ちになる。
つらい、苦しい、どうしようもなく胸が痛い。
いじめられていた時の記憶は、まるで私の中に取り憑いて消えることのない悪魔のようにも思えた。