「あの……」
「どうしましたか?」
おずおずと視線を上げた私は、先程抱いた疑問をすぐに解決しようと試みた。
「あの方たちって、私と同じ……その、死神列車の乗客ですよね?なんで離れて座らされているのかと思って……」
目的地が同じなら、こんなにも故意に席を離す必要はないはず。
車掌さんは私の問いに、ああ、と納得したような表情を浮かべた。
「死神列車に乗車された方には、いくつか問いに答えていただいております。個人のプライベートになるので、周りに聞かれたくない人もいるかと思い、ギリギリ会話が聞こえない位置を確かめた上、離れて座ってもらっています」
「問い……?それって、質問ってことですか?」
車掌さんが言った、〝いくつかの問い〟という単語。疑問はさらに大きさを増し、私は思い切り首をこてんと傾げる。
すると、車掌さんはさらに不思議なことを口にした。
「はい、マニュアルで決まっておりますので、その通り聞かせていただきます。内容は……あまりペラペラ喋るのもどうかと思うのですが、結構精神的にきついことも聞かせていただくと思います」
「……分かりました」
「ああ、それと、この死神列車は、すぐにあの世に連れて行くというものではありません」
「え?」
思ってもいなかった言葉に、目を見開く。
すぐにあの世に連れていくものではない……?それはつまり、この列車に乗っていても、今すぐには死なないってこと?
困惑と、不安と、ほんの少しの苛立ちと。いろんな気持ちがごちゃごちゃと混ざりあって、頭が掻き乱されるようだ。
車掌さんはそんな私を見ても冷静さに欠けず、真っ直ぐに私の目を見つめている。
「どういうこと……?私は、今の世界から逃れられると思ってここにきたのに……」
「安心してください。早ければ、明日の朝にはあの世へ辿りつけます。ただ、それには条件がある。これは死神列車の中で決められたルールなので、変えられないんです」
「条件って、なによ……」
「最終的にあの世の駅に停車するには、三つの駅で途中下車してもらわなければなりません。その途中の駅である出来事を体験してもらい、最後にようやく終着駅に到着するのです。あなたがまだ乗車するか分からない以上、……今伝えられるのは、ここまでです」
深く息を吐いた車掌さんは、ゆっくりとまぶたを伏せる。
「この説明を聞いて、やっぱり乗らないという選択をされて帰っていく方も過去にはいました。……あなたは、どうされますか?」
慎重に押し出された言葉たちは、私だけに向けられていた。
今すぐに死ねるわけではない。何が起こるかも分からない三つの途中駅での出来事を乗り越えて、ようやくここではないどこかへ、あの世へ辿り着ける。
それでも、私は死神列車に乗って死を選ぶのか。現実に帰り、また別の方法を模索するのか。……もしくは、生き地獄のような日々を高校卒業後まで耐えるのか。
他の誰でもない、……私が、選択するのだ。