「とりあえず色々問題点はあるが名前を聞こうかな」
「数ある問題点を省いてそこに辿り着いたお前の脳の意図に釘付けだよ」

伊野はそんな親友の言葉もお構い無しに、自分から少女をひっぺがした。
そして咳払いを1つ。


「ワッツユアネーム」

「いやなんで英語」
「だってハーフだからこの子」
「あぁ…」
「ワッツユアネーム」
「なあ、その日本語英語痒くなるからなんとかならないか」
「うるさいなあもう」

細かいよ、と渥美を手であしらう伊野に抱きついた少女は、きょとんと彼を見上げている。


「な、ま、え」

「…」


 きょとんとする金髪、固まる伊野、ため息をつく渥美。


「シャイだな」
「めんどくさい」
「だからそれを言うな」

少女は赤く腫らした目元に碧眼を揺らして、じっと伊野を見ている。
しばしの沈黙あって、例の親友は(ひらめ)いたように言った。

「お前から言えって言いたいのかもな」
「俺から?
 伊野雄介(ゆうすけ)。26歳。フリーター。好きなこと、煙草。酒。パチンコ」
「最悪な単語全てでお前のプロフィールは完成するんだな」
「自慢は息を2分以上止めていられる、髪を一度も染めたことがない」
「どこまでも不必要な知識だな」

もう突っ込むのも面倒だ、と告げると、渥美は彼女の傍に座り込んだ。
雨濡れだったセーラー服は警察署で乾かされただけなのか、シワがところどころいっていて気になる。

「名前を言って欲しいんだ。
 家族に問題があって家を出たならそれなりに処置は取るし

 君に不利なことはしない」
「…」
「黙っていればこっちも手段を選ばないぞ」
「怯えてる、怯えてるから渥美、いだだだだ腕が、腕が折れる」


黙ったまましっかり伊野にしがみついて、伊野の骨はまた悲鳴を上げる。

このままでは埒が明かない、そんなことを思ったとき、
伊野は灰皿に溜まった煙草の吸い殻を見た。