「君は人が自分の言い分を信用しないと思ったら、例えそれが真実であっても自分からモノを語らない節があるからなぁ」

その辺ひねくれてるよね、と小首を傾げられても、人間失格は皮のソファにだれていた。
ニコチン不足が感情を助長させ、右腕が意思とは裏腹に小刻みに動く。

「小松さん、良かったらタバコ」
「今時日本に喫煙所ってそうないからね」

喫煙者には酷な世界になったけど。
それは警察署内でも例外ではなく、この警官、小松だからこそわかる事情だった。

うーん、と片手のひらで顔を覆ってから、伊野は呟く。


「俺の錯覚だったかもしれない」
「ニコチン中毒で幻覚でも見た?」

「普通雨も降ってないのにびしょ濡れのセーラー服金髪美少女が、自分のアパートの一室にいたら警察に通報するでしょ?」


しばしの間。


「これは笑うとこ?突っ込む所?」
「だから言いたくなかったんだよなあもう」


恥の多い生涯を送って来た。

その中で自覚がある内のワースト10に入る言動だったように思うような、思わないような。


「とりあえず今日は帰れないかもね」
「あんたが証明してくれるんじゃないの。俺の身の潔白は」
「悪いけど昼間っから酒抱えてパチンコ行ってるフリーター(かば)うと僕の名前にも傷が付く、潮時ってやつよ人間失格」

「ああ〜普段の素行不良」


人間失格が頭を抱えてソファに(うずくま)ると、傍らで室内にコール音が鳴り響く。
それを取った警官は受話器を持ったまま声を大にして言った。


「小松さん、今電話で彼の友人と名乗る男が彼を釈放しろと」