「人類に必要なものを残すと最終的に3つしかないと思うわけ」
「へえ。言ってみ」

「火と水とニコチン」

「水をさすようだが少なくとも近年、第三者の需要率は低下する一方だぞ」

アパートの前で弁護士さんが持参したさつまいもを枯れ葉と紛れさせながら、木の枝を探して会話するいい大人二名+α=僕。

端から見たら何だこれってか明らか不審者だ
(敷地内でまだ良かった)

「ところでお前のリアルニコチンはどこだ」
「いや、ニコルですけど」
「お前が言い出しっぺだろーが!」

クワッと闘志を剥き出しする弁護士。
その背中に、勢いよく何かが突撃して、その勢いは長身の弁護士さんをもグラリと翻弄するイキだった。

「まちがえた」


額を押さえるなり再び違う人間に抱き着き直す少女。
紛れもない。今朝僕が挨拶を交わし、最近伊野さんの家を出入りしている金髪少女である。

「あ、ニコル 渥美がさつまいも持ってきたから今から焼き芋しようと」
「! 食べたい!」

(……何だか)

「お前に対しては寡黙度減ったな」

弁護士さんに先を越された

「え、減ってないけど。基本一日3言くらいしか喋んないし」
「もう今日1言しか残ってねえな」


彼女は伊野さんにしがみついたまま、僕に気がつくとまたぺこと頭を下げた。
僕もまた、同じように会釈を返す。きっと伊野さんより何歳も年下だってのに、よっぽど礼儀(一般常識)が備わっているようで何よりだ




「じゃあ、ニコル家の前にいらない雑誌とかくくってるのがあったから
 それ持ってきてくんない」
「りょ」

「今なんつった?」
「了解って」
「うん…略しすぎ」

急いで階段を駆け上がっていく彼女。そのなびく金髪をぼんやりと見ていると、
伊野さんはくるめた新聞紙にマッチで火をつけ、それを枯れ葉の中に押し込んだ。