「あ、芋じゃん」

紙袋に入っているものが食べ物だと気付くと、伊野さんはさっと体を起こした。

「この前弁護した男のおふくろさんからだと」
「いいなあそんな差し入れ貰えるなら俺も弁護士n」
「問題はお前に依頼するバカが世界にどんだけいるかだな」

ゆるゆるの伸びきったロンTとスウェットに比べ、ピシッと決まったスーツが畳に座り込む様は改めて見ても異様だ。

まず何でこんなに緩い人の傍に弁護士がいるんだろう。


「お客?」

会話が止み、二人がこっちを振り返る。どんなに決まったスーツが畳に座り込むより、部外者が人の部屋に上がり込むことの方が違和感はあったらしい。

「あ、僕隣の八鳥(はっとり)ですけど」
「忍者?」
「はい?」
洒落(シャレ)だ」

つまんないよな、とどうやらボケたらしい伊野さんにボヤく弁護士。独特すぎてついていけない空気感。

「お…大家の櫨山さんが家賃滞納に困ってます。出来たらさっさと払って欲しいって…」
「なぜ大家は自分で言いに来ないんだ?」
「大家さんが言っても受け流されていい加減疲れたからだって」

加えてもう1つの理由は敢えて伏せておく。

「だとさ人間失格」
「あー家賃ね…金ならどっかに入れたんだよ」

言うなり、おもむろに弁護士さんの懐を探りだす伊野さん。

「…ほーう?お前いつの間に人の財布に家賃仕込んだんだ」
「一昨日くらいかな?」
「一昨日ここ来てねーよ」

 ・・・

「そだっけ?」

あくまで空とぼける伊野さんに、弁護士はため息をつくと、財布から適当に札束を取り出して僕に押し付けた。

「えっ?」
「立替金だ。別にやる訳じゃない」
「弁護士さんはいつから慈善事業するようになったんですか」

「馬鹿だな、青年
 弁護士なんか基本慈善事業だ」