隣に住む男性の部屋に金髪の女の子が出入りしているのを目にしたのは、つい最近の話だ。
「あ」
「、」
それから、新聞を取りに寝巻き姿で家を出たら、戸口でしゃがみこんでいる彼女を目にしたのがつい今さっきの話。
「……おはようございます」
「…」
ぺこ、と頭を下げると逃げるように彼女は自宅の中へ入ってしまう。
何をしていたのかと彼女が座りこんでいた場所を覗くと、銀杏の葉っぱが点々と並べられていた。
「……おまじない?」
午前5:23。
僕は寝起きの頭で考える。
大学進学の道を取り損なった僕を、世間は浪人生と呼んだ。
知識も教養もあって、医学部進学を期待されていた僕にとっての受験失敗はそれこそ誰もが予想だにしなかった展開で、
ことあるごとに比べられてきた年子の弟が最近、僕が志望していた国立大学の医学部に首席で合格したと聞いてから、父母の僕に対する目はより軽蔑のそれへと変貌を遂げた。
だがこんなのはきっと、よくある話で。
僕は「それ」に屈してはいけない。
兄なのだから、と、未だ父母の教えを説いている辺りで、たまに他人にはわかり得ない吐き気に見舞われる。
(僕はせいぜい、親のいいなり)
『意志のない、操り人形め』
高校時代、クラスメートが放った陰口が刺さる。
特進クラスで友達に囲まれ、嬉々として喋る僕を羨む生徒からの嫉妬だとみなしていたそれが今、何故こうも癪に障るのか。
「……は、だめだだめだ雑念が」
ばちばちと両手で頬を叩いて頭を活性化させる。
秋の、まだ昇りきらない太陽に向かって、僕は伸びと共に一方的な挨拶を交わした。