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 最初は、夜にほとんど眠れなくなった。夜中とも朝方ともいえない時間帯に、うとうとするだけだ。
 みるみるうちに体力が落ちるのが、自分でもわかった。反応速度が鈍くなった。体育のサッカーで、あり得ないほど簡単にケガをして、部活のバスケを休む羽目になった。
 寝不足でドジをやるなんてユリトらしくないと、心配しながらも笑ってくれる部活仲間に、おれも笑って返した。本当は、あせりで胸がザワザワしていた。ごまかし笑いを続けていられるうちに、ちゃんと眠れる体質に戻らないといけない。
 おれの体はどうなってしまったんだろう? なぜ、眠るという簡単なことがうまくできないんだろう?
 いや、このくらい大丈夫。まだ大丈夫。
 そんなふうに自分をなだめていたのに、急転直下だった。ある日の学校帰り、道を歩いているときに、いきなり気を失った。眠りに落ちた、というのが正しい。たまたま一緒にいたハルタが、家までおぶって運んでくれた。
 当然、親にメチャクチャ心配された。大丈夫だと言い張ったけれど、その夜のうちに二度も倒れてしまった。翌朝、おれは精神科に連れていかれた。
 精神科だよ。おれ、異常なんだ。
 悲しくなった、というのとは少し違う。ただ、張り詰めていたたくさんの糸のうちの一本が、音もなく切れた。
 おれは病院でも品行方正の優等生を演じた。問題はないように振る舞った。だけど、症状は出るんだ。夜は眠れない。その反動のように、昼間にときどき、意識を失うように唐突に眠ってしまう。
 ナルコレプシーという脳の病気が疑われたけれど、検査の結果、違うとわかった。おれの睡眠のリズムがおかしいのは、原因不明。おそらくストレスだろう、と。
 ハルタにも親にも、学校には内緒にしてくれるよう頼み込んだ。爆弾を抱えて生活している気分だった。それも長くは続かなかった。授業中、板書をしているときに倒れて、保健室にかつぎ込まれた。担任の田宮先生にも睡眠障害がバレた。
 田宮先生にも、みんなに言わないでくださいと頼み込んだ。ちゃんと内緒にするから剣持は無理をするなと言われた。そこまで無理をしているつもりはなかったけれど、はたから見たら、やせ我慢の痛いやつだったのかもしれない。また、糸が一本、ふつりと切れた。
 少しずつ、うまくいかなくなっていく。一本ずつ、糸が切れていく。昼間に突然眠っても、疲れは取れない。というより、眠ったことに自分で気付かない。
 夜は相変わらず、あまり眠れない。体力も注意力も削られていく。それでも、授業やテストや生徒会の仕事は、次から次にやって来る。立ち止まってはいられない。
 糸が、切れる、切れる、切れる。でも、おれはまだ大丈夫。最初からたくさんの糸を張って自分を吊り上げておいたから、これだけ切れても、まだ落ちないでいられる。
 こんな無茶がいつまで続くんだろう? 中学を卒業するまで? 高校や大学を出るまで? 社会人になってからも? いつか年老いて死ぬまで?
 いっそ今すぐ終わらせてみたいけれど、その方法がわからない。