天形は呆然としていた。

「なんとか言えよ」
「いや……」

 天形の煮え切らない態度に、俺はまた天形の胸倉を掴む。

「なんなんだよ! 少しははっきり言ったらどうなんだ!」

 それでも天形は俺から目をそらす。

「……ふざけんなよ……ひなたを笑顔にするのも、喜ばすのも、悲しませるのも、全部お前なのに! なんでお前は逃げるんだ!」

 すると、天形は俺の手首を掴んだ。
 ゆっくりと視線が上がってくる。

「……仕方ないだろ」
「は?」
「俺とあの子は違いすぎる。俺と付き合っていたら、あの子の評価が下がるんだ。ただ好きなだけじゃダメなんだよ」

 俺は天形から手を離す。

「それなら……お前が変わればいいだけだろ……」
「変わろうとした。あの子に迷惑がかからないように、真面目になろうとした」

 そんな噂は聞いたことないし、天形が真面目になっているようには思えなかった。

 だが、真っ直ぐに俺を見てくる天形が、嘘をついているようには見えない。

「でも、ほんの少し真面目になったところで、周りからの俺の評価は変わらない。真面目なあの子に悪影響になる」
「誰もそんなこと……」
「矢野だってそう思ってただろ」

 図星で、言葉につまる。

「そういうことなんだよ。俺が何をしても、あの子の隣にいることは許されない」