自分の才能のなさを羅列することにはやはり抵抗があるが、嘘を吐いても仕方がないから正直に言おう。烏にだって耳はあるし嘴だってあるが、私には音楽の才能がないと思う。

 何の曲を聴いても同じに聴こえるし、曲の違いは速いか遅いかくらいでしか判断がつかないし、歌詞は聞こうとしてもまったく記憶に残らないため反芻も出来ない。

 故に、「この曲すごく共感出来る」と言っている人間には抵抗がある。共感出来る歌なんてこの世に存在するはずがないと、私は考えているからだ。

 自分のことを知ってくれる、恋する女の気持ちがわかるなんて都合のいいアーティストがいるわけがないし、共感出来る歌をセールスポイントに売り出しているアーティストも虫唾が走る程度に好きではない。

 今回の標的は死に際にどんな表情をするのだろうか。まだ若造であるゆえ、恐らく自分が死ぬことを理解出来ないまま息絶えるのだろう。かわいそうだとは微塵も思わないが、今回は鎮魂歌でも歌ってみようかとも思う。歌で人の心が救えると豪語するアーティストの言葉が間違えていることを、私が証明してみせようじゃないか。まあ、私が心を込めて歌ったところで、どうせ相手には伝わらないのだろうけれど。

 私が珍しく死に際の人間の気持ちを考えているのは、おそらく現状が原因だ。

 飛べないように傷つけられた羽をひきずりながら、私は地べたに血を擦りつけ、少しずつでも前に進もうと努めていた。これが私の最期だと予想出来ていたなら、ご主人に別れの挨拶を用意出来ていたものの。……いや、違う。予想出来ていたなら、こんな状況にはなっていないはずである。何もかも私が悪いのだ。自分では気がつかなかったが、慢心と油断があったのだろう。これは戒めみたいなものだ。

 私の口調はご主人に影響されているが、私の方が融通の利かない固い印象を与えてしまうために、知らぬ間に敵を作っていることもあるだろう。死に際になって反省するのはいささか遅すぎたが、そのせいでご主人に迷惑をかけていないことを切に願う。

 世界中のどこにも、嘘を吐かない種族などいないのだろう。

 私のような烏でも餌として狙われたなら敵を騙すし、食物連鎖の下方にいる私に食われる側の動物だって、逃げようと必死に頭を使い、私を騙そうとしてくる。

 だから、大きな脳味噌を持っている人間や、神様と呼ばれる方々が――嘘を吐かない理由はないのだ。