そこまで考えて、私はぶんぶんと頭を振った。颯爽と目の前を走り抜けて一人を抜いた侑希の姿が脳裏に蘇り、なぜか頬が熱くなった。

 ホームルームが終わると、侑希がまっすぐにこちらに近づいてきた。

「倉沢くん、今日のリレー凄かったね。一抜き」
「まあね」

 夏帆ちゃんに声を変えられた侑希は、得意げにニヤッと笑う。

「格好よかったよ。──聡には負けるけど」
「なに? 褒めていると見せかけて、のろけかよ」
「そーでーす。あははっ」
 
 夏帆ちゃんがおどけたように笑う。苦笑する侑希は夏帆ちゃんから視線を外すと、私を見下ろした。

「雫は褒めてくれないの?」
「凄かったよ」
「格好よかった?」

 期待に満ちたような目で見つめられる。今日の侑希は凄く、正直言ってすごく格好よかった。けれど、なぜだかそれを口にするのがとても気恥ずかしく感じる。

「…………。うーん、どうだろう?」

 濁したその返事に、侑希はわかりやすくがっくりと項垂れた。

「厳しい……。結構、格好よかったって色んな女子から言われたんだけど?」
「じゃあ、それで満足してくださーい」

 夏帆ちゃんはしっしと虫を手で払うような仕草をした。侑希はまた苦笑いをすると、こちらを向いた。

「雫。鞄持ってやるから一緒に帰ろう。俺、部活のやつが体育祭の運営委員やっていてさ。この後もテントとかの片づけを手伝えって言われたから、ちょっと待っていて」
「うん、ありがとう」
「じゃ、また後で」

 教室から出ていく侑希の後ろ姿を見送りながら、夏帆ちゃんが不思議そうな顔をした。

「なんで倉沢くんが雫ちゃんの鞄を持つの?」
「私ドジだから、足を怪我しちゃって」
「え? いつ? もしかして、障害物競争で転んだとき!?」
「……うん」

 おずおずと頷くと、「ええー!」と夏帆ちゃんは小さく叫んだ。

「雫ちゃん言ってくれればよかったのに! 大丈夫なの?」
「うん。保健室行ったから」
「よかった。でも、なんで倉沢くんは知っているの?」
「私が歩くのを見て気が付いたんだって。侑くんが保健室に連れて行ってくれたの」

 夏帆ちゃんはそこまで聞くと、驚いたように目を見開いた。

「え? へえ……。ふうん?」
「なに?」

 なぜかニマニマしたような笑みを浮かべる夏帆ちゃんに困惑する。