私はテントの端っこの、スタート位置がよく見える場所までとりあえず移動した。選手からすると、スタート位置に立ったときに正面に見えるあたりだ。何人かの生徒が同じようにテント横に立って、応援している。

『続いては、二年生です』

 アナウンスの後に発砲音。
 第一走者が走り出し、周囲の生徒達がわっと歓声を上げる。応援の声は大きなうねりとなって、辺りを覆いつくしていた。

 侑くんは……第四走者かな。

 選手達が並んでいるところを眺め、侑希を探した。
五人いる走者の中で、最後から二番目の位置に立っているのが見えた。『4』と書かれた青色のゼッケンを付けている。『3』のゼッケンをつけた松本くんが走り出すと、侑希がスタート位置に移動した。
 スタート位置に立った侑希が、前を向く。そのとき、目が合った気がした私は「頑張れ!」と大きな声で叫んだ。周りは各クラスの走者を応援する大歓声。聞こえるわけはないのだけれど、こちらを見る侑希がにこっと笑ったように見えた。

「倉沢、頑張れ!」
「いけー!」

 第三位でバトンを受け取った瞬間、松本くんへの声援が侑希への声援へと変わる。ゼッケンと同じ青色のバトンを握り、目の前を颯爽と走り過ぎた。

「倉沢!」
「追いつける! 頑張れ!」

 最初は五メートルほどだった二位の走者との差は一メートルほどまで縮んでいた。B組全員が拳を握って声援を送る。

「侑くん、頑張れ!」

 私も両手を口の周りを覆うように当てて、精一杯叫んだ。二位との差が縮み、順番が逆転する。

「あと一人だ!」

 横にいた男子生徒が叫ぶ。あと一人を残したところでアンカーへとバトンが繋がれ、最後の走者が走り出した。

「抜いた!!」

 最後を走る陸上部の久保田くんはトラックの中盤で前の走者を追い越し、一位でゴールした。

「やったー!」

 周りからB組の歓声と、追い抜かれたクラスの悲鳴が聞こえた。


 体育祭はクラス対抗で、二年B組は三学年全十五クラス中三位と健闘した。

「今日、最後のリレー凄かったね。最後二人抜いて一位だもん。全員格好よかったけど、聡が一番格好よかったなぁ」

 教室に戻った夏帆ちゃんは最後の種目だったリレーのことを思い出したのか、そう言いながらニマニマと笑う。確かにみんな格好よかったな、と思う。特に──。