私は窓から外を見た。観戦中の生徒達やテントの白い屋根が邪魔して、校庭の様子は見えない。

「侑くん、行かないと」

 藤井先生の斜め後ろに立つ侑希を見上げる。
その呟きを拾った藤井先生が、後ろに立つ侑希の方を振り返った。
 
「あら。倉沢くんは対抗リレーの選手なの? 行ってきていいわよ。後はやっておくから」
「はい。お願いします」

 侑希がぺこりと頭を下げる。
 
「侑くん、ありがとう。頑張ってね」
「うん、任せとけ」

 侑希は片手を上げると、にやりと口の端を上げる。親指をぐっと上げるポーズをして、その場を後にした。

「原田さんも、対抗リレーが始まるまでには間に合うわよ」

 パタンと閉じた扉を椅子に座ったまま見つめていると、藤井先生はクスリと笑う。
 湿布を貼られ、足首にひんやりとした感触がした。医療用の紙テープで、ずれないように上から固定する。その上から、足首を固定するようにテーピングが巻かれた。

「ほらっ、できた。早く優しい彼氏くんの応援に行かないと、間に合わなくなっちゃう」

 自分の治療後を確認して満足げに頷いた藤井先生は、こちらを見てにこりと笑った。私は一瞬、何を言われたのかわからずに、ぽかんとして藤井先生を見返した。そして、ようやくその意味を理解すると急激に顔が赤くなるのを感じた。

「か、彼氏じゃありません!」
「あら、そうなの?」

 真っ赤になってぶんぶんと首を振る私を見つめ、藤井先生は不思議そうに首を傾げる。そのとき、クラス対抗リレーの前の種目である、一年生女子の玉入れの勝敗を告げるアナウンスが流れたのが聞こえた。
 
「そろそろ行かないと、本当にお友達の出番が終わっちゃうわよ」
「あ、はい」

 私は慌てて立ち上がる。固定してもらったおかげか、先ほどまであった鈍い痛みは殆どなくなっていた。

「ありがとうございました」
「どういたしまして。何かあったらまたいらっしゃい。ふふっ、青春っていいわね」

 保健室を去り際、藤井先生は目を細めて楽しそうに笑った。

 急いで校庭に行くと、ちょうどリレーのスタートを報せる発砲音が聞こえてきた。一年生から走り出すので、二年生までは少し時間があるはずだ。

早くしないと、侑くんの出番が来ちゃう!