二つ目を飛び越えて三つ目に入ろうとしたとき、隣のレーンを走る子がよろけるのが見えた。後ろ足がハードルに引っ掛かり、ハードルが回転する。
 それを咄嗟によけようと、体を捩った。そのせいで助走が足りず、自分のレーンのハードルはなんとか飛び越えたものの、うまく着地できずに正面に派手に転んだ。ガシャンと大きな音がして、バシンと叩きつけられるような衝撃。

「雫ちゃん!」 

 クラスメイト達の悲鳴が聞こえる。
 急に近くなった地面に、一瞬わけがわからなくなった。顔を上げると、先に転んだC組の子はすぐに立ち上がったようで、横を駆け抜けていくのが見えた。さらに続いて、別のクラスの子も駆け抜けていった。

「あ……」

 どんどん遠くなっていく、体操着の背中を呆然と見つめる。

「雫ちゃん、頑張れー」

 みんなの声が聞こえた瞬間、痛いとか全部忘れて、咄嗟に立ち上がって走った。ゆうに十メートル以上離れた距離を、巻き返すことはできない。けれど、全力で走った。



「雫ちゃん、ぶつけたところ、大丈夫だった?」

 ゴールした後に待機場所に行くと、クラスメイト達が心配していた。

「うん、大丈夫だよ。ドジだから転んじゃった」

 本当は足首がさっきからズキズキと痛かったけれど、みんなを心配させないように、努めて元気な声を出す。

「あれは、隣のレーンで事故ったから仕方なかったよ。雫ちゃん、凄いよ。転んだのに三位なんて」
「うん」

 クラスメイト達の慰めの言葉に、少し心が救われる。
 本当は一位になりたかったな、と思う。けれど、全力でやったからか、不思議とそれほど悔しさはなかった。

 競技が終わって、足を庇いながら観覧席に戻ると、「雫!」と呼び掛けられて私は振り返った。観覧席の後ろに立つ侑希がちょいちょいと手招きをしている。

「どうしたの? なにかあった?」
「大あり。ちょっと来て」

 私はその様子を見て、首を傾げる。なんのようだろう?

「なんだろう? ちょっと行ってくるね」
 
 隣に座る夏帆ちゃんに声を掛けると、競技観戦にすっかり夢中なようで「りょーかい!」と軽く返事をされた。
 すごすごと座席設置エリアの後ろまで行くと、侑希は不機嫌そうな顔をしていた。
 
「どうしたの?」
「ちょっと来て」