今日からいよいよ二年生だ。
今までの校舎の二階の教室から三階の教室に移動しただけで、だいぶ景色が変わった気がする。窓から見下ろした校庭では、朝練習を終えたサッカー部のメンバーが校庭整備に使った『トンボ』と呼ばれる器具をしまっているのが見えた。
「雫ちゃーん!」
席でぼんやりと外を眺めていると、元気な掛け声がした。にこにこ笑顔の夏帆ちゃんが駆け寄ってくる。
「今年もよろしくね」
「こちらこそよろしくね」
私も笑顔で返事をする。
「雫ちゃんは理系コースだっけ?」
「うん、そう」
「じゃあ、それも一緒だ。やったー!」
さくら坂高校では三年間、ベースとなるホームルームのクラス替えはない。そのかわり、二年生になると理系コース、文系コースに別れての授業が始まる。そして三年生になると国立理系コース、国立文系コース、私立理系コース、私立文系コースと更に細かく細分化されるのだ。
私は理学部に進学希望なので理系コースを希望した。夏帆ちゃんも建築士として設計事務所を経営している父親の影響で建築学科に行きたいそうで、理系コースだ。
理系コースに進む女子は、女子全体の三分の一弱しかいないので、夏帆ちゃんがいてくれたことはとても心強く感じた。
「あーあ。聡も一緒だったらよかったのになー」
「でも、ホームルームが一緒だからそんなに変わらないでしょ?」
「まあ、そうなんだけどさ。授業も一緒がいいじゃん」
不貞腐れたように口を尖らせた夏帆ちゃん。
夏帆ちゃんの彼氏である松本くんは、将来法律の勉強をしたいからと文系コースに進んだ。皆、目標とする未来に向かって一歩一歩、歩き始めているのだ。
「そういえばさ、もうすぐ体育祭だね」
夏帆ちゃんが思い出したように、そう切り出す。
「そう言えば、そんな時期だね」
さくら坂高校の体育祭は年に一度、五月の最終週だ。去年は入学した直後に練習が始まり、右も左もよくわからないうちに終わってしまった印象しかない。あんまり運動は得意じゃないけれど、今年は楽しみたいな、と思った。
「今年も多分、聡がクラス対抗リレーの選手に選ばれるから、私絶対に応援するの」
「リレーかぁ。松本君、運動神経いいもんね」
「うん」