あの侑希が『どうか、あの子と両想いになれますように』ですって?
 クラス中の女子──というのは言い過ぎだとしても、これまで多くの女子の心を鷲摑みにしてきた侑希が?

 ない、ない。絶対にあり得ない!

 私は教室の端っこで友人の男子生徒とふざけ合っている侑希を窺い見た。机に座ってスマホを見ながらなにかに盛り上がっているから、ゲームでもしているのかな、と思う。

 侑希は一般的に見て、とても目立つ容姿をしている。
 髪の毛は明るい茶色だし、瞳も薄い茶色。小さな顔についているのは大きな目と高い鼻梁。侑希の母さんはイギリス人と日本人のハーフなので、そのせいだろう。おまけに勉強もできるし、バスケも上手い。性格も悪くない。

 だから、侑希は小さい頃からとてもモテた。バレンタインにはたくさんチョコレートを貰っていたし、時々机の中にラブレターを仕込まれていたことも知っている。

 中学になってだんだんと彼氏・彼女ができる年頃になると、ますますそれは顕著になった。それと共に、なぜか私が巻き込まれて被害をこうむることも度々あった。
 携帯の連絡先をこっそり教えろとか、自分がいかにいい子かを侑希に伝えてくれとか、休日に侑希を呼び出す協力をしろとか……。そんなの、なんで私が協力しなきゃいけないのか意味不明。
 断ると「雫ちゃん酷い!」と泣かれ、いつも私が悪者にされた。中でも、『家が隣だからっていい気にならないで』と女子生徒に囲まれたことは一番の黒歴史。調子に乗ったことなんて、一度だってないと断言する。

 それがなくなったのはいつ頃だっただろう。あれは確か……侑希が今の彼女と付き合いだしたころだ。他校に通う、美少女と噂の彼女さん。たまたまショッピングモールに行ったときに知り合ったとか。

 昔の侑希は、ことあるごとに彼女とのラブラブアピールをした。映画に行ったとか、花火見に行ったとか、人気のテーマパークに行ったとか。
 学校の女子達も、どこの学校かわからない、見たこともない彼女が相手では勝負のしようがなかったらしい。

 そこまで考えて、私はハッとした。

 っていうか、侑希って彼女いるよね? 昨日も彼女とデートに行くから金欠だって言っていたよね? それなのに、『両想いになれますように』ですって? 

 おかしい。おかしすぎる。やっぱりあれは夢だったのかもと思う。