私達はどちらからともなく、並んで歩き始める。
「雫はなんの用事があったの?」
「……ちょっと、ね」
まさか、『さくら様に人生相談しに来ました』なんて言えるはずもない。曖昧に濁すと、二人の間に沈黙が流れる。私は居心地の悪さに身じろいだ。
前日に悪いことをしたのは私で、今さっきしっかりと謝ろうと決意したばかり。なのに、いざ本人を目の前にすると、どう反応すればいいのかわからなくなる。
──何か喋らないとっ。
何か会話のネタはないかと頭をフル回転させたけれど、こういうときに限って何も思いつかない。いつもなら、何時間だって笑って喋っていられるのに。
「今日さ」
先に沈黙を破ったのは侑希だった。
侑希はこちらを見下ろしながら、口を開く。
「うん」
「部活だったみたいで、学校に久保田がいたんだけど……」
「ふーん」
「雫。知らなかったの?」
「? 知らないよ」
「あ、そう……」
なんの話だろうと思ったけれど、侑希はそこで話をやめてしまった。右手で頬をぽりぽりと掻くのが視界の端に見える。隣を歩く侑希は、チラリと私の手元を見た。
「それ、なに?」
「これ? メンチカツ。田中精肉店の」
「なんでそんなの持ち歩いているんだよ。後から買えばいいのに」
呆れたように笑われて、カーっと頬が赤らむのを感じる。これじゃあまるで、私がとっても食いしん坊で帰りまでに我慢できずに買ってきたかのようだ。
けれど、さくらに買ってきたけれどお腹いっぱいだからと食べてもらえなかったと言うわけにもいかない。
「侑くんだって、風来堂の紙袋持ち歩いていたじゃん」
「もう空だし」
「これ、美味しいんだよ?」
「知っているよ。時々部活帰りにみんなで食うもん。さすが雫」
「なにが『さすが』なの」
耐えきれないように、けらけらと侑希が笑いだす。
絶対に私が食いしん坊だとからかって遊んでいる。むすっと口を尖らせていた私は、肩を揺らしている侑希を窺い見る。
侑希はやっぱり優しくていいやつだと思う。
だって、こういういつも通りの態度をとってくれて、内心すごく救われた。
私は決心するように、ふうっと息を吐いた。
「侑くん」
「なに?」
肩を揺らしていた侑希が、こちらを見る。口元は未だに笑ったままだ。
私は勇気を出してスーっと息を吸った。
「昨日、ごめんね」
「なにが?」
「雫はなんの用事があったの?」
「……ちょっと、ね」
まさか、『さくら様に人生相談しに来ました』なんて言えるはずもない。曖昧に濁すと、二人の間に沈黙が流れる。私は居心地の悪さに身じろいだ。
前日に悪いことをしたのは私で、今さっきしっかりと謝ろうと決意したばかり。なのに、いざ本人を目の前にすると、どう反応すればいいのかわからなくなる。
──何か喋らないとっ。
何か会話のネタはないかと頭をフル回転させたけれど、こういうときに限って何も思いつかない。いつもなら、何時間だって笑って喋っていられるのに。
「今日さ」
先に沈黙を破ったのは侑希だった。
侑希はこちらを見下ろしながら、口を開く。
「うん」
「部活だったみたいで、学校に久保田がいたんだけど……」
「ふーん」
「雫。知らなかったの?」
「? 知らないよ」
「あ、そう……」
なんの話だろうと思ったけれど、侑希はそこで話をやめてしまった。右手で頬をぽりぽりと掻くのが視界の端に見える。隣を歩く侑希は、チラリと私の手元を見た。
「それ、なに?」
「これ? メンチカツ。田中精肉店の」
「なんでそんなの持ち歩いているんだよ。後から買えばいいのに」
呆れたように笑われて、カーっと頬が赤らむのを感じる。これじゃあまるで、私がとっても食いしん坊で帰りまでに我慢できずに買ってきたかのようだ。
けれど、さくらに買ってきたけれどお腹いっぱいだからと食べてもらえなかったと言うわけにもいかない。
「侑くんだって、風来堂の紙袋持ち歩いていたじゃん」
「もう空だし」
「これ、美味しいんだよ?」
「知っているよ。時々部活帰りにみんなで食うもん。さすが雫」
「なにが『さすが』なの」
耐えきれないように、けらけらと侑希が笑いだす。
絶対に私が食いしん坊だとからかって遊んでいる。むすっと口を尖らせていた私は、肩を揺らしている侑希を窺い見る。
侑希はやっぱり優しくていいやつだと思う。
だって、こういういつも通りの態度をとってくれて、内心すごく救われた。
私は決心するように、ふうっと息を吐いた。
「侑くん」
「なに?」
肩を揺らしていた侑希が、こちらを見る。口元は未だに笑ったままだ。
私は勇気を出してスーっと息を吸った。
「昨日、ごめんね」
「なにが?」