「さーくーらーさーまー」

 待つこと数秒。今日も、ふわりと空気が揺れ、どこからともなくさくらは現れる。

「はい、どうぞ」

 手に持っていたレジ袋を差し出すと、さくらはそこから一つだけメンチカツを取り出してもぐもぐと食べ始めた。

「今日は一つでいいの?」
「さっきも食事したから、お腹がいっぱいじゃ」
「ふうん?」

 私は最近、食欲旺盛なさくらに合わせてメンチカツを二つ買っていくようにしていた。さくらはいつも、その二つをペロリと食べてしまう。それが今日は一つしか食べなかった。珍しいこともあるものだ。

「それで、どうしたのじゃ? 我になにかようがあったのじゃろう?」

 さくらは最後の一口をもぐもぐと咀嚼して飲み込むと、虹色の瞳でゆっくりとこちらを振り返った。
 私は、ぐっと言葉に詰まる。こんなに小さな子供の姿をしていてもやっぱり神様。色々とお見通しのようだ。

「あのね、侑くんに酷いこと言っちゃったんだ」
「それで?」
「なんとなく気まずいの」
「ふむ」

 さくらはお賽銭箱の上にぴょんと飛び乗ると、そこに腰かけた。毎回毎回、そんなところに腰かけて罰(ばち)が当たらないかと心配になるけれど、そもそもここの神様はさくらなのだから関係ないのかな。

「謝罪して許してもらえなかったのかの?」
「多分、許してくれているよ。けど……傷つけちゃっただろうなと思って」
「それは、心を込めて謝るしかなかろう?」
「うん、そうだね」

 沈黙が辺りを包みこみ、私は俯いた。
 視界に、等間隔に置かれた四角い置き石と、それを囲むように敷き詰められた丸石が映る。

「雫よ」
「うん」
「一度繋がった縁というのは、そうそう簡単に切れるものではない。けれど、一旦切れてしまうと繋ぎなおすのはとても難しい。その相手が大切なら、申し訳なく思っている気持ちをきちんと伝えるがよい。失ってから気付くのでは、遅すぎる。近ければ近いほど、人は有難みを忘れがちになる」
「うん」

 さくらの諭すような言い方は、威厳がある。見た目は完全に年下の、まだ小学校の低学年くらいにしか見えないのに、とても不思議だ。
 ふと、以前さくらに縁結びを手伝えと言われて際の不思議な体験で出会った女の人が脳裏に浮かんだ。
 ──近くにあるとさ、近すぎて見えないことってあるよね。